癌(Cancer)の語源に関する古典文献調査をしてみたよ🐰

「癌(cancer)」という病名がカニ(ラテン語:cancer、ギリシア語:καρκίνος)に由来するという通説に対して、古典文献における最古の明示的な語源説明を検証した。
アマミノクロウサギ 2025.07.03
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そこの君『🐰って暇なんだな』とか言わない。

息抜きがてらにやってみた、ルールは簡単『可能な限り原典まで遡る』🐰

ほんといい時代になったもので🐰さんはギリシア語もラテン語も読めないけど、そこはChatGPTなど生成AI様を駆使して原典を翻訳していったよ。調査は未完だけど一旦の結論が出たのでまとめてみるね。

もちろんウイルス学者である🐰さんの専門ではないわけで、もし医学史に詳しい人がいればご教授いただきたい🙇

①ウィキペディアにおける記載

「がん」を意味する「Cancer」は、かに座を意味する「Cancer」と同じ単語であり、乳癌の腫瘍が蟹の脚のような広がりを見せたところから、「医学の父」と呼ばれるヒポクラテスが「蟹」の意味として「καρκίνος」(Carcinos)と名づけ、これをアウルス・コルネリウス・ケルススが「Cancer」とラテン語に翻訳した。

英語ウィキペディアでは

The word comes from the ancient Greek καρκίνος, meaning 'crab' and 'tumor'. Greek physicians Hippocrates and Galen, among others, noted the similarity of crabs to some tumors with swollen veins. The word was introduced in English in the modern medical sense around 1600.(この語は、古代ギリシャ語の καρκίνος(カンキノス) に由来し、「カニ」および「腫瘍」を意味します。ヒポクラテスやガレノスなどのギリシャの医師たちは、腫瘍に浮き出た血管の様子がカニに似ていることに注目していました。この語は、近代医学の文脈で英語に導入されたのはおよそ1600年頃です。)

とある。まあ、もっともらしく通説が正しく記載されているね。ここから始めるよ。

②医学の父ヒポクラテス

ヒポクラテスの全著作・原典はここここで読めるよ。お世話になった🐰

この中で『がん』に関する記述を探してみると。1か所だけ見つかる(『箴言集(しんげんしゅう)』第6巻38節

 It is better not to apply any treatment in cases of occult cancer; for, if treated, the patients die quickly; but if not treated, they hold out for a long time(「潜在性の癌(見えにくい・深在性の癌)の場合には、いかなる治療も施さない方がよい。というのも、治療を行えば患者はすぐに死に至るが、治療をしなければ長く生き延びることが多いからである)。

これだけよ🐰(え?)

ここで『καρκίνος』の複数形が使われているのだけど、厳密にいうと(当時)この言葉が具体的に何を示しているのかここの記載だけは全くわからない。

通説(Googleや生成AI)を調べてみると、腫瘍・乳房に発生するがんに関する記載が『Of the Epidemics(疫病について)』にあるとされているけど、英訳を読んだ範囲ではがんに該当する疾患記述は存在せず、腫瘍のような記述もすべて急性炎症性疾患または感染症と解釈される記載だったよ。

ヒポクラテス原典にあたった範囲では『ヒポクラテスががんに 'カニ' という語を当てた』という説は裏付けがない。

③アウルス・コルネリウス・ケルスス

以前レターでも触れた『現在のHPV感染症として尋常性疣贅・ミルメシア・コンジローマを初記載』した人で『De Medecina』の著者だ。これはこちらで英訳が読める。

そこで『癌』に関して検索してみたら2か所記載があった。

1:鼻腔内に、女性の乳首のような小さな腫瘤が形成されることがあり「硬く、鼻腔を広げて呼吸を妨げる」場合に、それを “cancerous”だと記載してある。

2:臍周囲の腫瘤(臍ヘルニア、腫瘍など)の一部が “sometimes cancerous” であり、治療が危険である場合は「癌性なら放置すべき」と記載されている。

『cancer』という語を臨床的用語として用いているのだけど、その起源や分類、現在的な意味で『がん』として使われたれいではないようだ。ヒポクラテスの記載が癌を表しているのかも不明であればケルススの『がん』と同一のものを指しているのかも不明。ただ、がんなら治療をするなという見解は一致している。

***

日本語ウィキぺディアにある言説は正しくないようだ。

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続きは、2879文字あります。
  • ④ガレノス:ローマ帝国時代の医学者。
  • ⑤ステファヌス・オブ・アテネ(Stephanus of Athens)
  • ⑥ポール・オブ・アイギナ(Paul of Aegina)
  • ⑦これで癌・cancerの語源に関する問題が解決したか?

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