HPV検査はHPVに感染していること・していないことを調べる検査ではない

来年から準備の整った自治体では子宮頸がん検診に加えられることになるであろうHPV検査。実は感染している・していないことを調べる検査ではない🐰(5分でわかるHPVシリーズ)
アマミノクロウサギ(Amamino_Kurousagi) 2023.11.10
誰でも

一言まとめ

『感染ではなく、子宮頸がん発症のリスクを調べる検査』

この二つは相当異なる🐰説明しよう。

 今後、日本でもHPV検査単独法が検診に導入される方向だ。今よりより多くの人がHPV検査を受けることになる。

国が推奨する子宮頸(けい)がん=キーワード=検診に、がんの原因となるウイルスの感染を調べる「HPV検査」が来年度から新たに加わる見込みだ。現行の検査より早い段階でがんとなる可能性が分かり、陰性なら検診の間隔も長くなる。一方、陽性者への長期間の経過観察が重要となり、自治体が導入する際には、体制を整え…(以下有料部)
https://www.asahi.com/articles/DA3S15788098.html

検査感度以下の感染が存在する

 当然感度100%の検査は存在しない、という話なのだがHPVの場合はやや事情が違う。

HPVは一度感染すると生涯にわたって持続感染し、免疫系による制御の度合いに応じて、『完全に抑制され(HPV検査でも陰性となり)病原性が発揮されていない感染』から『ウイルス遺伝子の発現が活発でウイルス粒子の産生や、がんへの進行の可能性がある感染』など、さまざまに程度の違う病態を示す。これがHPV感染の基本。

感染している・いないが問題ではない、問題となる病変があるかないかが重要なの🐰

ワクチンを接種していないなら、感染しているのが前提だ

ワクチンを接種していないなら、感染しているのが前提だ

20代までにほとんどの人が感染する機会があるのに、30代後半以降、一回あたりのHPV検査の陽性率は10%程度だ。単純計算で9割の人は感染しているのに検査は陰性となっていることになる。感染者全体を見たらHPV検査はそのほとんどを検出していない🐰

じゃあ、何を見ているのよ

HPV検査で陽性の場合

HPV検査が陽性と出た場合にわかっていることは

・HPV検査が陽性の人から子宮頸がんが発症することがある。

これにだけね🐰感染の観点を加えると…

・HPV検査で陽性と出る様な感染がある人から子宮頸がんが発症することがある。

という解釈となり、子宮頸がん予防上の対策として…

  • 細胞診やコルポスコピーなど実際の感染病変や前がん病変を見つける検査をおこなう必要・利益がある。

  • リスクが高めのグループにいるので、検診・検査間隔を短くする必要・利益がある。

これらが行われることになる。

HPV検査で陰性の場合

HPV検査が陰性と出た場合にわかっていることは

・HPV検査が陰性の人から『次の5年間』子宮頸がんを発症する人はほとんどいない。

で🐰感染の観点を加えると…

・HPV検査で陰性と出る様な感染があったとしても『次の5年間』子宮頸がんが発症しない。

という解釈となり、子宮頸がん予防上の対策として…

  • リスクが低いグループにいるので、検診・検査間隔を長くすることができる。

検診間隔の延長として検診プログラム上に反映されるというわけだ(3〜5年が推奨されるだろう)。検診の翌日に感染したとしても話は同じ、そのうち説明しよう🐰

重要なのは『感染していないことをHPV検査は証明できない』が『がんになる様な感染がないことは高い精度で示すことができる』ということ。

HPV検査陰性の結果を感染していないと間違って解釈した時の問題点

陽性の時は『感染している』と解釈してまあ問題ないだろう(例外があるがそのうち)。陰性の時『感染していない』と解釈するといろいろ問題がある。実際は感染していることが多いからだ。

検査で陰性だった。今感染していない。今後感染機会(性交渉)をしなければ・同じ相手としか性交渉をしなければ、子宮頸がんに罹患する可能性はない。検診は不要だ。

→感度以下の感染をしている可能性があり、そこから将来異形成などが発症してくることがある。定期的な検診はやはり重要だ。でも間隔はきちんと空けるべきだ。

前回の検査で陰性で、今回の検査で陽性だった。検査と検査の間に感染した。

→前回感度以下の感染であっただけの話かもしれない、HPVの感染がわかった時点から、いつ・どこで・だれから感染したのか確定的にはわからない。直近のパートナーだけではなく過去の全ての性的パートナーの可能性があるし、確率は低いが初交前から感染していた可能性もある。

新しく関係を持とうという2人が、感染予防を目的として性行為感染症のスクリーニングでHPVを検査する利益がある。

→感度以下の感染がある。感染性の有無に関してはわからない。結局キャリアであればいずれ共有されるし、将来陽性となることもあるだろう。もちろん、どちらかが外から持ち込んだことを示すわけでもない。また、HPV感染は持続する上に治療法もない、陽性と出たらどうするのか?検査を続けていれば陰性になるだろうが意味はない。ワクチンを接種するくらいが対策になる(だから何歳でも新しいパートナーを持つならワクチンが薦められている)。

今感染している。検査が陰性化してからワクチン接種しよう。
検査で陰性であることを確認してからワクチンを接種しよう。

→今感染しているものに関しては、検査が陰性だろうと・陰性になろうと感染したまま🐰感染していないことを知ることはできない。その感染自体はワクチン接種で予防も排除もできない。過去・現在の感染リスクは考えても仕方なく、未来の感染リスクだけを考慮して接種の意味・利益を考えればいい。検査するくらいならその費用をワクチン接種に使った方がマシだ。

まとめ

『感染ではなく、子宮頸がん発症のリスクを調べる検査』

 『感染』特に『感染していないこと』を考慮していないことがわかるだろうか。陽性・陰性時の5年間の時限付きの子宮頸がん発症リスクが評価できる、に尽きる。そして、結果に応じて、最適な次の検診・検査の間隔や方法を選択するガイドにする。これがHPV検査を一次検診に持ってくることの意味だ。

HPV検査の意味が、直接子宮頸がんや前がん病変を見つけることですらないのもわかるだろう。

HPV感染に対する感度100%の検査が開発されたとしても意味がないのもわかるだろうか。全員感染していて、全員陽性になる検査など意味ない🐰

『5分でわかるHPV』について

 クドくてわかりにくいことには定評のある🐰さんが、トピック一点に絞って、5分間で読める程度の簡単な説明を試みる。簡便さ・理解のしやすさと正確性はトレードオフだ。実際は『複雑で簡単ではない事象』を簡便にまとめると、厳密に正確でない部分が出てくる。少なくとも条件付き主張の条件は落とさざるを得ない。その点は回数をこなすことで将来的に補完できれば幸いだ。

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