HPVワクチンの効果:持続時間と接種回数の関係
現時点の日本のHPVワクチン接種プログラムは相当にややこしい。科学的な要素だけでなく行政的な手続きの問題も絡んでいるからね🐰
簡単にまとめると『とにかく一回めを接種することが大事。話はそれから』
(ここではワクチンプログラム上、女性限定の話とするが、考え方は男性でも全く同じ)
まず一番基本となる接種プログラムから:3回接種法
承認に至る時点での『接種法とワクチンの有効性に関して』は臨床試験で示されたことを元に決められています。HPVワクチンはコンポーネントワクチンの一種で、過去の知見からその時点でわかっていたことは『長期的かつ十分な獲得免疫の誘導と維持には複数回の接種が必須』と言うものでした。
実際、接種回数に応じて、誘導される中和抗体価に差があって1回と3回ではざっくり10倍以上異なります。HPVワクチンの効果が最低でも20年程度は持続してほしいのと、感染予防効果を示す最低の中和抗体価が定義できていませんでしたので『10倍高いのであればそちらの方がよいと推定される:感染予防効果も前がん病変予防効果も確認されているし、より長い持続期間が期待できる』と接種法が設定され承認されました。
承認時点に利用できた臨床試験の観察期間によって『最低確認された』効果持続時間が添付文書には示されていて(6年とか)、正しくは『効果の持続時間に関しては長すぎてわかっていない』になります。市販後のモニタリングも継続されていて、データとしては『最低15年間の感染予防効果が確認され、減弱の気配ナシ、現時点で追加接種の必要性の議論は必要ない』になります。
30歳前後の追加接種プログラムの運用と実効性を考えると、やるとなれば大変なことでしたが『15歳までに接種して、一番HPVに感染することの多い30代まで予防できる』ことが確認されているので『効果持続時間に関する議論も結論がほぼ確定』と言っていいです。あとは検診の役目。心配いらんわ🐰
世界標準の2回接種プログラム
HPVワクチンは純粋な感染予防ワクチン。感染してしまったものに関しては効果が期待できません。感染したウイルスに効くのは、ウイルスが細胞内にいるので『細胞性免疫』。感染予防(細胞に入るまで)に効くのは、ウイルスが細胞の外にいるので『液性免疫(中和抗体)』になります。
HPVワクチンの作用機序に関しては、その全てが誘導される中和抗体によるもので、細胞性免疫の役割はほとんどありません(この辺がCOVIDワクチンとの大きな違いですね)。動物の感染実験モデルなどでも確認されています。つまり、中和抗体の誘導能のみでワクチンの効果が正確に評価できることがわかっています。感染予防や異形成予防能以外の代替指標で評価することになるので”Immunobridging”と言われます。これは技術用語🐰
16歳以上で行われた臨床試験では実際に接種されるより若い集団における免疫誘導能がよくわかっていなかった・決定されていなかったのですが、実際接種され始めてデータが集まってくると、より若く接種を受けた場合2回接種でも3回接種と同等の中和抗体が誘導されることがわかりました。”中和抗体の誘導能=HPVワクチンの有効性と言える”ですので、2回でも3回接種と同じくらい効くってことですね。
これを受けて(追加の臨床試験なども経て)15歳の誕生日までに一回目のワクチンを接種すれば半年以上あけた2回接種でよい、となっています。
-
どの種類のワクチンでもいいのですが、日本では手続きの問題で9価だけに正式採用されています。これは日本だけの話ってこと。
-
15歳の誕生日以降に関しても、エビデンス的には2回で十分とされています。25歳くらいまで(実質的なワクチンの対象の上限)なら問題ない。英国では45歳まで延長されています。コストと予想される追加利益の問題、データの確実性をどう評価するになりますが、3回接種する意味は年々なくなっています(免疫抑制、臓器移植とか自己免疫疾患とかある場合は3回推奨)。
世界中のプログラムのほとんどは15歳までに接種するものになるので、ごちゃごちゃした議論は不要。定期接種プログラム内に複数の接種方法が混在する状況は運用上の問題になるよなぁ🐰
最近出てきた一回接種プログラム
臨床試験が中断集団のなかや3回接種プログラムを開始後などに、さまざまな理由で1回しか接種を受けなかったヒトがいます。それらを追跡観察してみると、感染予防効果や異形成予防能が3回接種と比較して遜色ないことがわかりました。
1回接種だと確かに誘導される中和抗体価は低い傾向があると言えます。感染予防に必要な中和抗体価が分かっていなかったので、確実に効果のある値を参考にしていたのですが『もっと低くても十分だった』と最近分かった言うことです。エビデンスの蓄積ですね🐰
1回接種でも十分効果があることが10年間の観察研究で分かったこと。1回接種でも2回接種と比較して、感染予防効果・異形成予防能が3年間は遜色ないと臨床試験で確認されたことをうけて、WHOの『20歳くらいまでの若い女性なら1回接種プログラムでもOK』との推奨が出たのがこの一年の話になります。
-
一年接種のメリットはなんと言ってもコスト削減とワクチンの調達が容易になること。
-
同じ数のワクチンで2倍の人に接種できること。
全世界で『ワクチンを接種したい15歳までの女性(男性の話はあと)』のうち15歳までに接種できているのは、いまだに20%を超えるくらいです。大多数の接種できていない人たちに、なるべく早く・多くの人が接種したい今、その展開スピードが1回接種だと2倍になるのですよ。やらない理由はない。
一方、いくつか指摘があって
-
長期的な効果に関するエビデンスに関しては、2回3回接種に比較すると不確定な部分がある。
このため、2回接種をおこなっている国で1回接種に移行するかどうかは、今あるエビデンスをどう評価するかになります。2回でうまくいっていれば慌てて1回にする必要はない。もう少しデータを見てからでも良いってことです。追加接種が必要になるのであればその実施は困難ですからね🐰
英国なんかは『独自のデータもあるし、男女共に25歳の誕生日までは1回接種に移行するわ』とWHOの推奨の範囲を超えてさっさと移行しました。追加接種は必要にならないとの評価です。オーストラリアも移行済み。ワクチン先行国での移行も今後加速していくでしょう🐰
HPVワクチンは当初の想定を超えて相当優秀だ
時間が経つとワクチンの有効性が低下して追加接種が必要になる。これは普通です。観察期間が伸びエビデンスが蓄積するに従って、有効性を確保するのにワクチンの追加接種が必要になった。COVIDワクチンをみればわかるでしょう。それがHPVワクチンでは『3回必要だと当初は思われてたけど、実は一回でも十分だった』まで来てしまいました。
HPVワクチンは『どのワクチンでも良い。とにかく一回目をなるべく早く接種することが重要』となっています(今は9価が定期接種で誰でも接種できるので9価でいいでしょう)。一回接種後一定期間(ひと月くらい見てください)感染予防効果は十分に発揮されています。『複数回の接種は長期的な予防効果に関してより確実にする』とは言えますが、どの程度接種回数に応じて差があるのか。今後、その利益が小さい・もしくは追加接種が必要か確認されていくことになります。
もし追加接種が必要になるとしても10年以上あとの話で『おそらく不要だが観察・評価は続ける』が現時点での結論です🐰
色々考え方があるのが分かったでしょうか。個別に非専門家が考え決断するには限界がありますので①基本的には保健当局の推奨に従うこと、とした上で②接種を受ける医療機関で相談する、とよいとしましょう。
練習問題
『女の14歳の時に一回目のガーダシルを接種したが、積極的勧奨の中断があり2回目3回目が接種できていない。 最近キャッチアップが始まったので、10年後の現在、24歳で2度目のガーダシルワクチンを接種した。 3人の方とこの10年の間で関係を持ったが、この10年間はHPV感染を防ぐことは出来なかったのか?』
以上を理解していれば簡単ですね🐰
一回目を接種しているので、感染予防効果は3回接種の時と同じくらいあったと期待していいです。その上で、10年後の今2回目(今後おそらく3回目も?)接種したと言うことは、長期的な効果の持続性についてより確実になったと言えるでしょう。どれくらい確実になったのかはわかりませんし、実は関係ないかもしれません。でも、接種したのでより効いている側になります。
過去の3人パートナーからワクチンが標的とするHPVが感染した可能性はまずないと考えていいです。1回目接種できててよかったですね🐰
すでに登録済みの方は こちら