日本人の10%がHPV感染症で病院に通うことになる
一言まとめ:
癌から良性の疾患まで含めると『日本人全体の10%くらい』がHPV感染症で病院に通院することになる。公衆衛生上の大問題だよね🐰
ヒトの皮膚や粘膜の細胞を標的に感染するウイルスの一つとして『HPV (ヒト乳頭腫ウイルス・ヒトパピローマウイルス)』がある。さまざまな脊椎動物からパピローマウイルス(PV)は発見されているが、ヒトに感染するPVとして、今まで400種類以上が発見・報告されている。
『性的に経験のある人のうち5〜8割の人が生涯で一回はHPVに感染したことがある・することになる』と言った場合、この『HPV』とは『性器・外陰・肛門・口腔(頭頸部)の皮膚・粘膜に感染して癌や異形成、性器イボ(コンジローマ)の原因になるHPV』を指す。今までに400種類以上が発見されているHPVの中の、1割程度の『型』のHPVに関する話だ。
(400種類近くある『その他のHPV』に感染するとどうなるのだろうか。そのようなHPVの中にもヒトに病原性をもつものがいくつもある。🐰の興味はむしろそちらにあるのだが、それはまた別の話としよう。)
HPV感染症が全人類に与える負担
感染性病原体がヒトに感染した時、どのような健康上の問題を起こすか。その性質を病原性という。”病原性”と”その頻度”でその感染症が健康上・公衆衛生上の問題となるかが決まる。
まず、世界全体で『性器・外陰・肛門・口腔(頭頸部)の皮膚・粘膜に感染して癌や異形成、性器イボ(コンジローマ)の原因になりうるようなHPV』に感染することよる病気が、どのくらいの数発症しているのかみてみよう。
(Vaccine. 2006 Aug 31;24 Suppl 3:S3/11-25, Int J Cancer. 2017 Aug 15;141(4):664-670, WHO HPV information centre)
人類に発症するがんのうち約20%のものが感染症が原因になっている。その4分の1(がん全体の5%程度)がHPV感染症が原因よる子宮頸がん・頭頸部がん(中咽頭がん)・肛門がん・膣/外陰がん・陰茎がんになる。毎年80万人近くの人が罹患・診断されているが、その中で一番数が多いものが子宮頸がん。死者は40万人程度。
加えて、子宮頸がんを予防するための検診で発見される上皮内がんや軽度異形成などは、『がん』とは違って直接命の危険はないが、その管理・治療負担は大きい。
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HPV関連がんの罹患数に男女間で大きな偏り(9割は女性)がある。これは、女性が感染した場合特にがんが発症しやすい子宮頸部を持つのが理由だ。この負担の偏りが『女性を優先して』HPVワクチン接種を行うことの基本的な理由になる🐰。
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HPV関連がんは増加傾向にある。特に中咽頭がんに顕著で、近年その罹患率が増加していることがわかっている。全体としてHPV関連がんの数は将来増加するだろう。
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上皮内がんや異形成まで含めると『HPVに感染することによる負担』はより女性に圧倒的に偏ることになる。
コンジローマを忘れてはいけない。若者を中心に5〜10%程度の人が罹患している。良性とは言え負担の大きい疾患だ。
日本におけるHPV感染症の負担
日本での数値をみてみよう🐰
これは年あたりの罹患数になり、生涯罹患率で考えると数%の日本人がHPV関連がんに罹患していることになる。高度異形成やコンジローマまで加えると、10%前後の人が生涯で一度はHPV関連の疾患に罹患・通院している(子宮頸がんの生涯罹患率が1.3%であることを参照)。
HPV感染症は公衆衛生上の大問題
実に10%前後の人だ。多いよね。桁間違ってない🐰念の為。感染リスクも小さく評価されがちだが、罹患リスクも相当に過小評価されている。
加えて女性であれば、性交渉の経験があるだけで2年に1度の定期的な子宮頸がん検診を70歳近くまで推奨される。そのコスト・負担は、どれくらいのものだろうか?
そして、これらの疾患・負担のほとんどは『適切なタイミング』でワクチンを接種することだけで、大部分が予防・減らすことができる。そのうち話そう🐰。
§ 『5分でわかるHPV』について §
クドくてわかりにくいことには定評のある🐰さんが、トピック一点に絞って、5分間で読める程度の簡単な説明を試みる。簡便さ・理解のしやすさと正確性はトレードオフだ。実際は『複雑で簡単ではない事象』を簡便にまとめると、厳密に正確でない部分が出てくる。少なくとも条件付き主張の条件は落とさざるを得ない。その点は回数をこなすことで将来的に補完できれば幸いだ。
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