『HPVに感染しても90%は自然に排除される』と言うのやめません?

一度感染したら生涯にわたって持続感染してます。誤解のもと。ヘルペスウイルスと同じだってば🐰(5分でわかるHPVシリーズ)
アマミノクロウサギ(Amamino_Kurousagi) 2023.11.16
読者限定

 がんの原因となりうるハイリスクHPV(ヒトパピローマウイルス)に感染してしまったとしても、この世の終わりではない。実際、性交渉をしたことがあるヒトのほとんどがハイリスクHPV に感染している。感染したヒトの大部分で『がん』は発症することはなく、その大部分の人では無症状だ。そしてそのまま一生過ごせるだろう。HPVに感染しても問題となる様な病変を形成する人は10%もいない。そのことを強調することも大事だ、でも…

ハイリスクHPVに一度感染すると、生涯感染は持続しがん発症リスクとなり続ける

これが正しい🐰

 問題は『HPVに感染しても90%は自然に排除される』と言った時、感染リスクを小さく見積もる誤解がいくつも生じてしまっていることだ🐰

  • 単純に感染しても大したことはないと考えていないか?感染してもしばらくして陰性化すれば免疫で感染は排除されリスクは無くなった。これは危険な勘違い。

  • 『感染しても完全に治る場合がほとんど』と誤解することは、HPVワクチン接種のタイミングとして初交前であることの重要性を小さなものにしてしまう。違う、性交渉を通じてあっさり起こってしまう初感染を予防する必要があるのよ🐰

  • 逆に大人のワクチンの有効性・利益を過大に期待してしまうことになる。今まで問題なかった、45歳まで推奨されている。誰でもHPVワクチンをした方が大きくHPV関連癌がんを予防できる?接種しないとHPV関連がんのリスクが大きくなってしまう(不安だ)。これも正しくない。ある程度の性的活動性のあった大人では、ワクチン接種による大きな利益は期待できない。全くないわけではないとしても。

  • ワクチンを接種したいが、今感染がわかっている。感染が排除されてからワクチンを接種しよう。これも意味がない。今の感染を気にしても仕方がない、ワクチンの効果には関係ない。未来の感染リスクだけ考慮すればいい。待っている間に感染したら元も子もないではないか。

 HPVは感染してもしばらくすると免疫系の働きで完全に治る・排除される。『感染症が治る』と言う素朴な誤解なのだが、その誤解は実際の健康上のリスクにつながっている。

『HPVに感染しても90%は自然に排除される』はどこからきたのか?

WHOの説明にはこうある

Although most HPV infections clear up on their own and most pre-cancerous lesions resolve spontaneously, there is a risk for all women that HPV infection may become chronic and pre-cancerous lesions progress to invasive cervical cancer.
https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/cervical-cancer#:~:text=Nearly%20all%20cases%20of%20cervical,progress%20to%20invasive%20cervical%20cancer.

 『ほとんどのHPV感染症は自然に治癒し、前癌病変のほとんどは自然に消失するが、HPV感染症が慢性化し、前癌病変が浸潤性子宮頸癌に進展するリスクはすべての女性に存在します』(DeepL機械翻訳)

 お、DeepLいい仕事してる🐰

  • 『感染』と『感染症』は異なる。

  • 『感染症・感染病変(前がん病変)が”clear up”治癒すること』と『感染がなくなること(排除されること)』は異なる。

  • 『感染が持続していること』と『感染症・感染病変が持続していること』は異なる。

この3点を理解して文章を読み直してみよう🐰

『ほとんどのHPV感染症(前がん病変)は自然に治癒し(感染自体がなくなるとは言っていない)、前癌病変のほとんどは自然に消失するが、HPV感染症(感染ではなく、感染病変・前がん病変という意味)が慢性化し、前癌病変が浸潤性子宮頸癌に進展するリスクはすべての女性(ここ重要、全ての女性ってこと)に存在します』

感染自体に関しては何も述べていないと解釈できることがわかるだろうか?

 ほとんどのHPV感染症が自然に治癒すること自体は正しい。

 ①HPV感染の自然史を知るために大規模な疫学調査が行れた。

そこでわかったこととして、新しくハイリスクHPVが検出された人を観察すると

  • 88%の人が検査が陰性化する

  • 5%の人はHPVは検出され続けるが感染病変は形成しない(細胞診等は陰性)。

  • 7%の人は前がん病変(CIN2+:中等度異形成以上)を形成する。

7年以上観察されたのだけど、大部分が最初の2年に起こる。

『HPVに感染したとしても90%の人は2年以内に自然治癒する』と表現される時の根拠になるものになる。

 この疫学調査は、HPV感染と前がん病変の因果関係を示すエビデンスとなった。一方、(A)検査が陰性化した人の中から将来どのくらいCIN2+の罹患者がでるのか(B)HPV検査だけが長期間陽性と出る人のCIN2+罹患リスクは高いのかなど、より長期的な・生涯を通したHPV感染の自然史に関しては、はっきりわかっていないと言うことができる。

②検査・検診システムにもよるが、性交渉をする全ての女性がハイリスクHPVに感染するとして、前がん病変(CIN2+)の生涯罹患率が10%程度であること。

『HPVに感染したとしても90%の人では問題となるような感染病変を発症しない』と言える。

いずれの場合も、感染自体は極々普通なのに問題となる様な感染を発症するのは10%程度、90%の人では問題とならないと言うこと🐰

この記事は無料で続きを読めます

続きは、1725文字あります。
  • 『HPVに感染しても90%は自然に排除される』と言うのは単なる翻訳・解釈上の間違いなのか?
  • 科学的な言説は絶対的な真理を語らない

すでに登録された方はこちら

読者限定
ワクチンを接種した人たちには子宮頸がん検診を減らした方がいいのだろうか...
読者限定
HPV検査単独法によるに子宮頸がん検診は5年も間隔をあけても大丈夫?
読者限定
見てわかるHPV④子宮頸がんの発症率:北欧諸国をまとめてみた
読者限定
見てわかるHPV③HPVワクチンが子宮頸がん検診に与えたインパクト
読者限定
HPVに関するちょっとした疑問に答えるシリーズ④
サポートメンバー限定
HPVの存在証明(11)分子生物学の導入
読者限定
バングラデシュはやるよ🐰
読者限定
日本の子宮頸がんは検診でかなりの部分予防されている🐰