ガーダシル(HPVワクチン)の接種を受けた子供は、『子宮頸癌で死ぬ確率よりもワクチンが原因で死ぬ確率の方が37倍高い』のか?
『子宮頸癌で死ぬ確率よりもワクチンが原因で死ぬ確率の方が37倍高い」
この主張は『The Vaccine on Trial 』(邦訳:子宮頸がんワクチン問題、みすず書房)の中にその元ネタがある。見たことがある人もいるだろう、心配になる人がいるのかわからないが、全くデタラメだ。
今回はこれについて解説するね🐰
『The Vaccine on Trial 』
まず、ここでの主張を『批判なし』にそのまま解説しよう。
タイトル『年齢調整後15〜26歳一万人あたりの死亡率』とある(デタラメなのだが批判しない約束だったね🐰)。おそらくそれぞれ一年あたりと主張しているのであろう。
4つの数値が出ているので一つづつ左から見ていくと
①15〜26歳の全ての理由による死亡率。1年間この世代10000人を観察すると4.37人死亡するという意味。理由は問わない。
②臨床試験におけるガーダシル接種群の死亡率、11778人に接種したら10人死亡した。10000人(1年間)あたり8.5人になる。
③臨床試験におけるコントロール接種群の死亡率、9680人に接種したら7人死亡した。10000人(1年間)あたり7.8人になる。
④同じ世代の子宮頸がんによる死亡率。1年間10000人を観察すると0.23人子宮頸がんで死亡するという意味。
数値が比較できる・しているということは、それぞれの単位が同じということ(でないとX 倍などと言えない)。10000人1年当たりの率として表記してある。その上で…
ガーダシル投与群の死亡率は子宮頸がんによる死亡率の37倍である(8.5/0.23)。
この様に主張している。さらに
標準の死亡率①に対してもワクチン接種で死亡率が2倍になっていると主張することもある。
また、この様に主張する例も観察された。
標準の死亡率は子宮頸がんのみの死亡率の19倍(4.37/0.23)であるから。ガーダシル接種群との差分18(37−19)はガーダシルによる死亡。その世代の子宮頸がんの死亡率の18倍だ。
よってガーダシルを接種すると死亡が増え危ない。もし、子宮頸がんによる死亡を100%予防したとしてもその18倍もの数の余計な死亡者がワクチン接種によって出ることになる。
本当なら大変なことだが。
何が間違っているのか。
何もかもデタラメなのだが、一つづつ見ていこう🐰
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まず、タイトル『年齢調整後15〜26歳一万人あたりの死亡率』
まず、年齢調整したものではない。原理的にもなされているはずがない。
年齢調整とは、二つの統計のその年齢構成(年齢ごとの人口)が異なる場合に比較するとき、『統計を構成する二つ集団の年齢構成を同じとなるように調整(年齢調整)する』という意味。『それぞれの集団の15〜26歳(本当は15〜24歳だったのだろう)の死亡率が15〜19歳・20〜24歳の二つの年齢5歳階級で構成されていて(それが通常)①〜④の統計を構成する15〜19歳・20〜24歳の人口階級の人口がそれぞれ異なるので調整した』と意味は通らないことはない。
だが、実際の元データを見たらわかるが、なされていないし、できる様なデータでもない。見てみよう
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①15〜26歳の全ての理由による死亡率。
データは引用に基づくと『National Vital Statistics Reports, Vol. 53, No. 5, October 12, 2004, p24』とあり、実際に存在する(これ)。
National Vital Statistics Reports, Vol. 53, No. 5, October 12, 2004, p24 黄色のハイライトは🐰
黄色くハイライトした部分が15-24歳の女性100000人あたりの1年間の死亡率になる。10000人あたりに直せば4.37人で数値も一致する。
この数値は15−24歳の10歳階級であって年齢調整していないしする必要もない。一番左のAge-adjustedが年齢調整してあって、ここでは年齢構成のことなる民族間で数値を比較するときに調整が必要だったということだ。
『The Vaccine on Trial 』の数値はこのグラフのタイトルにAge-adjustedとあることから引っ張られているが、実際は調整された数値でない。まあ、意味がわかっておらず、それっぽいから引っ張ってきたのだろう。
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②③臨床試験におけるガーダシル接種群・コントロール接種群の死亡率
この数値自体は、ガーダシル承認のための保健当局による審査が行われたときに提出された資料・臨床試験の結果からきている。基本的に公開情報だ🐰
それぞれの数字が見えるだろう。ガーダシル接種群の死亡者が1人少なくなっているのが謎だが。
これは、5つの臨床試験のデータを合わせて、ワクチン接種後の重篤なイベントの発生頻度をみたものになる。『The Vaccine on Trial 』にある数値がそのまま見つかるのでソースはここで間違いないだろう(ガーダシル接種群の死亡者が1人少なくなっているのが謎だが)。
率だけ見たら、それぞれ10000人あたり、8.5/7.2人になっているが、観察期間を見てほしい。臨床試験の観察期間全てにおける死亡事例がまとめてあり(臨床試験ごとに観察期間が異なる)①の『15〜26歳の全ての理由による死亡率』が1年あたりの数字と異なることがわかるだろう。
臨床試験の観察期間は数年以上に渡ること普通であり(ここでは具体的に与えられていないし調整されていない)、①と比較するとむしろ死亡率が低かった(より健康な集団であった可能性すら示唆)と解釈される。
また、臨床試験の参加者は15〜24(26)歳に限られず、その点も調整されておらず(ナマ数値が一致するから当然)タイトルと一致しない。
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④同じ世代の子宮頸がんによる死亡率。
データは引用に基づくと『SEER Cancer statistics revew 2015』とあり、ここになるが…『15-26歳における人口1万人当たりの子宮頸がんによる年間死亡率』など存在しない。どこからきた数字かわからない(酷いデタラメだ🐰)が、一番近い数字(0.23)は、Table5.10にある。
この資料の中に他に0.23と数値が一致する部分はない🐰一つハワイの年齢調整子宮頸がん死亡率の標準偏差になるが関係なかろう
これは現在10/20歳であった人が一生のうちにで子宮頸がんで死亡する確率(%)になる。20歳の女性が生涯で子宮頸がんで死ぬ確率は100人中0.23人という意味だ。
15-26歳における人口1万人当たりの子宮頸がんによる年間死亡率とは全く関係ない数値だ🐰
そして、この四つの数値は年齢調整されていないし、される様なものでもない。グラフの『年齢調整』は意味のない飾りだ。
まとめてみよう
『The Vaccine on Trial 』にその根拠のある4つの数値をそれぞれ見てみると
15-26歳における人口1万人当たりの年齢調整年間死亡率とあるが実際は
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15−24歳の10歳階級人口10000人当たりの年間死亡率
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4つの臨床試験におけるガーダシル接種群の10000人当たりの死亡率。年齢は関係なく(15-26歳ではなく)。年間当たりでない。各臨床試験の観察期間1年以上(それぞれ異なる)となっている。
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4つの臨床試験におけるコントロール接種群の10000人当たりの死亡率。年齢は関係なく(15-26歳ではなく)。年間当たりですらない。各臨床試験の観察期間1年以上(それぞれ異なる)となっている。
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10歳もしくは20歳の女性が一生のうちに子宮頸がんで死亡する確率・100人当たりの人数(%)。
もちろんこの4つの統計上の数字は(数字自体は存在するとしても)年齢調整して算出された訳でも、(公表された情報で)年齢調整できる様なものでもない。
4つの数値はそれぞれ単位が異なり、数値自体を直接足したり・引いたり・割合/倍率を計算できる様なものでもない(小学校でならったよね)。
この様な数値を同じ縦軸で記載すること自体が不適切で、ガーダシル(HPVワクチン)の接種を受けた子供は、『子宮頸癌で死ぬ確率よりもワクチンが原因で死ぬ確率の方が37倍高い』など解釈は全くできない🐰
🐰さんは先に『37倍という数字を出した計算方法がおかしい』・『全ての死亡と子宮頸がんのみによる死亡を混同している』と指摘し、同時に『この説明は不適切だ』とも指摘した。
不適切な理由がこれだ。計算の問題云々以前に、そもそもこれらの数値は比較できる様な数値ではない、お互いに全く異なるものを表した数値でそれぞれ直接関係ないものだ。
この様に『The Vaccine on Trial 』(邦訳:子宮頸がんワクチン問題、みすず書房)に挙げられた数値・グラフは一見真っ当そうに見えるが、その実全くデタラメ・不適切なものだ。引用元自体は実際存在し、数値自体は発見できる。一方、その数値の意味するものはまったく本来の意味と異なっており、適当な数値を適当に引用してあるのが本当のところである。
まとめ
ガーダシル(HPVワクチン)の接種を受けた子供は、『子宮頸癌で死ぬ確率よりもワクチンが原因で死ぬ確率の方が37倍高い』公表されているデータから導き出される。
心配することはない。その根拠は全くのデタラメだ🐰
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