検診に意味がない、検診で見つかってくる上皮内癌は『がんもどき』で治療する必要はない?
サムネイルはDr Herb Green『Doctor Alice, CC BY-SA 4.0 <https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0>, via Wikimedia Commons』
子宮頸がんの発症の自然史と介入(検診と発見される病変に対する治療)に関する理解は一筋縄でいくものではありません🐰
検診が存在しない時代、子宮頸がんといえば『進行した状態になってからの痛みや出血』に続く『肉眼でわかるほどの子宮頸部に存在する病変』で診断されるものでした。当然予後がいいはずもありません。
『細胞診の登場』は比較的低侵襲の方法で、無症状の人の子宮頸部のサンプルを用いて、子宮頸部に存在する異常細胞を検出することができるようになりました。
『コルポスコープ』の登場は、肉眼ではわからないような病変を可視化し、それまではただ闇雲に生検を繰り返して診断していたものが『狙い生検』ができるようになりました。診断の精度の向上に貢献したわけです。
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一方、細胞診とそれに続くコルポスコープによる診断の導入・特に健康な女性を対象におこなう検診(スクリーニング)を行うとあらたな問題が出現します。
子宮頸がん検診は『がん検診』ではなく『前がん病変検診』です。がんに進行する可能性があるががんではない『前がん病変』を発見し、それに続いて適切な治療することによって子宮頸がんを予防することが目的🐰
『がんの発症数』と比較すると『前がん病変』の発症数ははるかに多い。高度異形成でさえ5倍以上の数は存在し、軽度異形成はその何倍にもなります。
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全ての前がん病変(高度異形成)ががんに進行するわけではないがその確率が看過できないほど大きい
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前がん病変で見つかった時点では、がんに進むものと進まないものを区別することができない
この為、治療が全例に進められるわけですね🐰
治療による害と利益のバランスはどこにある?
治療には害・後遺症ががあります。負担・害と比較して利益が大きいと期待される時に、その治療は正当化されます。
新たに検診で見つかるようになった新しい病態①早期子宮頸がんと②前がん病変に対する治療介入の閾値と方法の標準化までには色々紆余曲折がありました。
・治療介入の判断はどの時点で行うか?細胞診だけで判断できるのか?コルポ+組織診が必要なのか?軽度異形成は治療する必要があるか?
・治療方法は?上皮内癌に対する介入は子宮摘出なのか?円錐切除なのか?
実践と評価の上、現在では…
『上皮内癌を組織診で確認した場合に、上皮内癌を完全に除去する治療を行う。治療の目標は細胞診で異常細胞が検出されなくなること』
これが、ざっくりとした先進国のゴールドスタンダードとなりました。同時に現在進行形の今日的な問題でもあります。
・レーザー蒸散術(化学蒸散法・フェノールやTCA)、冷凍凝固法などより侵襲の低い治療法は適切な治療法なのか?
・CIN2の管理と治療介入の判断は?
・組織診ができない(低・中所得国など医療資源に制限のある)場合、治療介入の閾値は?
日本での正解が他の国での正解であるとも限りません。子宮頸がんの発症の自然史と介入(検診と発見される病変に対する治療)に関するさらなる理解が必要であるということもできます(🐰さんの次に計画しているプロジェクトの一つ。予算おりてほしい)。
これまでの研究でわかっていることととして①健康な人を対象に集団子宮頸がん検診をする利益があること②検診で見つかってきた上皮内癌を治療する利益があること(子宮頸がんの罹患率と死亡率が下がる)ことは根拠をもっていうことができます。
検診に意味がない、検診で見つかってくる上皮内癌は『がんもどき』で治療する必要はない。これらの言説は根拠をもって間違っているといえます。
とはいえ、紆余曲折もあったわけで、今回はその話ね🐰1950年台の話
子宮頸部の上皮内がん(CIS・CIN3・高度異形成も同じ)を放置したらどの程度浸潤がんが発症してくるのだろうか? 『CISは良性の病変ではないのか』とのアイディアを持った医師によって後に“unfortunate experiment”と呼ばれることになる一つの観察研究がなされたって話。
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- Unfortunate Experiment
- 『CISは良性の病変ではないのか』とのアイディアは棄却された。犠牲を伴って
- 研究にもやり方がある
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