子宮頸がん検診におけるHPV検査単独法の位置付け

今後導入されていくことになる子宮頸がん検診におけるHPV検査単独法。そのメリットとデメリット、受診における注意点は何か(5分でわかるHPVシリーズ)
アマミノクロウサギ(Amamino_Kurousagi) 2023.11.14
誰でも

 一言でのまとめ

『一回の検査ではなく、複数年にわたる子宮頸がん検診・検査システムとして考える必要がある』

やみくもに行うと細胞診単独法よりもかえって精度が落ちる。検査負担や過剰診断も増えるから、デメリットが大きくなる可能性もあるよ🐰

検診における細胞診単独法とHPV検査単独法の違い

 今行われている、細胞診単独法における検診でも、異常が見つかった場合にはHPV検査が精密検査(トリアージ検査)として行われている。同じHPV検査でも、その解釈・意味が子宮頸がん検診から診断に至るプロセスの中で異なったものとなっている。

2018年に細胞診単独法からHPV検査単独法に変更したイギリスの例をみて、その違いを学んでみよう🐰

まず、細胞診単独法(HPV検査トリアージ)の場合…

一次スクリーニングとして集団に対し細胞診のみを行い、異常が指摘されたものに対して、精密検査(コルポスコピー検査+生検)をするか・しないかをHPV検査で判断(トリアージ)するものになる。

  • 細胞診の間隔は3年(50歳以上は5年)となっている。検診による『子宮頸がん予防効果』がほぼ飽和する検査間隔になる。3年未満の間隔で頻回の検診を行ったとしても、異常の指摘・異形成は発見されることが増えても、子宮頸がんの予防や生命予後の改善は大きく変わらない。つまり、コスト・負担に対して利益ベネフィットがない。

35歳以上(大部分の子宮頸がん)であれば、定期的(ここ重要)の検診を受診し続ければ8〜9割の子宮頸がんを予防できることがわかっている。

問題点・弱点としては

  • 一回あたりのCIN2+(ざっくり治療が選択肢に入る様な病変・がんに進む可能性がでてくる病変)に感度がやや低めであること。70%とされていて、定期的な検診が重要になる。一回の検診ではなく定期的に何回も何回も受けることによって感度を補っている。

  • このため、検診結果の正常者に対しても、短めの検診間隔が推奨される(日本では2年に一度となっている。HPV検査単独法より短くなるという意味。

  • ローリスクHPV感染による感染病変など、子宮頸がんとは関係のない病変に対しても、検査で異常が指摘されたり、精密検査が行われることがある。頻回の検査が行われることになる。不必要な検査負担の増加とも解釈できる。

次に、HPV検査単独法(+細胞診トリアージ)の場合

英国の実際として挙げた。各国検査アルゴリズムは異なり、日本の場合も提案されているものはかなり異なる。

英国の実際として挙げた。各国検査アルゴリズムは異なり、日本の場合も提案されているものはかなり異なる。

 一次スクリーニングとして集団に対しHPV検査のみを行い(細胞診も行うのは併用法)、ハイリスクHPVが陽性の場合だけ、同じサンプルを用いて細胞診(トリアージ検査)を行って、コルポスコピー検査+生検をするか・しないかを判断する。

  • 子宮頸がん発症リスクはハイリスクHPVに感染すること(検査上は検査で検出できる様な感染があること)になるので、まずHPV検査を行うことで『子宮頸がんが発症しうる集団』と『しない集団』分けることができる。

  • 検査感度が非常に高く、『子宮頸がんが発症しうる人』をほぼ100%近く陽性と返すことのできる検査。そのため、HPV検査で陰性の場合『リスクなし(0に近い)』として、細胞診を行うことなしに、検査間隔を伸ばすことができる(細胞診の2-3年に対して5年以上)。

  • ローリスクHPVによる感染病変は拾ってこない。追加の検査負担が発生しない。

HPV検査単独法の問題点・弱点としては『検診法がなぜ細胞診からHPV検査単独法に移行するのか』の理由と密接に関係がある。

HPV検査単独は検査システム全体としてより多くの高度異形成を発見しより多くの子宮頸がんを予防できる

 強調されるべきは、細胞診単独法・HPV検査単独法において、それぞれ違う検査を行う様になるのではなく、細胞診・HPV検査の位置付けがスクリーニングかトリアージか、意味が変わっただけということになる。HPV検査で問題となるかもしれない感染(病変があるかもしれない)を見つけても、結局治療すべき病変を見つけるのは細胞診・コルポ頼みということになる。ここの感度は変わらない。

 細胞診単独法において全ての人に『毎年細胞診を受けること』や『細胞診で異常がみつからないのにコルポスコピーを受けること』は勧められない。コストや負担・過剰診断の割には利益が発生しないからだ。

 一方、HPV検査単独は『毎年細胞診を受ける』・『細胞診陰性でもコルポスコピーを受ける(図の中の3年目・結果によらず(紫)に注目)』ことによる利益がある人を選別することができる。その様な集団に対して、細胞診やコルポスコピー検査を密にやる(細胞診を毎年)・ことによって、子宮頸がん・前がん病変の発見率を上げることができる。

HPV検査陽性者に徹底的に細胞診をやって病変を見つけに行こう!
これがHPV検査の子宮頸がん検診における意味だ

 検査強度を上げるべき・上げることによる利益が見込まれる人を選別できる。これがHPV単独検査法の利益になる。逆に、検診間隔を空けてもいいひとが必要以上に検査を頻回に行うと、過剰診断・治療の増加や検査の負担・コストが不必要に増加することになる。

現在、一般的な推奨以上の『毎年の細胞診による子宮頸がん検診』を受けている場合、HPV検査単独法に移行する利益は実質ない。HPV検査でわかるのこと自体が『毎年の細胞診を受けた方がいい人』であるから(検査アルゴリズムにHPV陽性細胞診陰性でもコルポを行う選択肢がない限り)🐰陰性であった場合に次の検診までの間隔を安全に空けることができるのが利益と言える(推奨は5年後となるだろうか)。

 検査を受けるべき人が受け、必要ない人が受けない。これを徹底する必要がある。

アマクロ疣研について

  『アマミノクロウサギ疣贅研究所(アマクロ疣研)』では、パピローマウイルスに関する言説・主張に関して、科学的にどのようなエビデンスで・どのような時に・どの程度正しいと言えるのか、を説明していくことになる。専門家の多くがざっくり正しいと同意された解釈や、一般的にはなっていないが最近の研究で解釈が変わりつつあるところなども含めて、科学者(群)がどのように考えるかを説明していきたい。

  • 極々普通の人たちが、HPVワクチンやHPV感染症に関して『あれ?どうしてかな?』と思った時、陰謀論の様な極端なものに惹きよせられないよう、拠り所となる様なものを提供したい。

  • 医療従事者や全ての関係する職業・状況において、HPVワクチンやHPV感染症に関して、より正しく・科学的根拠をもって知っている。他の人に説明することができる。その様ときに、有用な情報を提供するのに資するのであればより幸い。

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実際にHPV単独検診に移行した国で何が起こったか。

HPV検査単独は検査システム全体としてより多くの高度異形成を発見しより多くの子宮頸がんを予防できる。
より多くの高度異形成を治療しないとより多くの子宮頸がんは予防できない。当然の話だ。

 より多くの高度異形成が見つかるということは、全体ではコルポスコピー検査を受ける人が増える(コルポスコピー検査自体の感度はHPV検査の有無で変わらない)。つまり、全体で見た場合検査数・検査負担は増加することになる(ただし負担の分布が変わる・偏る)。その負担・コストと引き換えに子宮頸がんが予防できる。

ひねくれた言い方をすると、高度異形成の罹患率は上昇する。より見つかる様になるからね🐰

***

では、実際HPV検査単独法に2018年から移行した英国やオーストラリアで何が起こったか?

コルポスコピー検査を受ける人が2〜3倍に増えた🐰

 陰性だったら検査間隔を3〜5年を空けることを徹底してもそうなった。HPV検査で陽性にになる人が何倍も検査を受ける様になるからだ。特に英国やオーストラリアでは25歳以上にHPV検査を導入したのが理由だ。ワクチンなしで20代のHPV検査の陽性率は25〜40%にものぼる。

日本においても、HPV検査単独法に移行後、本気で検診受診率が上がれば、今よりコルポスコピー検査の受診者が増える。2〜3倍に。増えなければより子宮頸がんを予防できることなどできない。HPV検査単独法に移行した意味などなかったということになる。現場はその負担に耐えれるのだろうか?

(日本の子宮頸がん検診ガイドラインにおいて『HPV検査は30歳以上で推奨』とされる理由もこれ。20代でHPV検査をすることによる利益・リスクのバランス評価は簡単じゃない)

ではHPV検査単独法に移行すべきなのか?

 HPV検査単独法のメリットを活かして、デメリット・負担を最小限にできるならするべきだ。より多くの子宮頸がんを予防できる様になる。

https://www.mhlw.go.jp/content/10901000/001132571.pdf

https://www.mhlw.go.jp/content/10901000/001132571.pdf

  • 検診を受けるべき人・受けるべきでない人をきちんと特定して受けるべき人だけ受ける様にする。

  • HPV検査陰性であった人が次の5年間検診を受けないようにする仕組みが必要(追加利益はないのに負担ばかり増える)。他の病院を受診して毎年受けてますなんてやられたら意味がなくなる。

  • HPV検査陽性であった人が検査アルゴリズムに従って、複数年にわたる精密検査を必要に応じて受診するシステムが必要(受けなかったらHPV検査の利点はなくなる)。

陽性・陰性に応じた対応を複数年にわたって正しく行うことができることができるかに尽きる。一年一回の子宮頸がん検診の話ではない。

一般的には『検診レジストリ・登録システムの構築と運用』になるのだが、どれほどの自治体(実際の検診運用担当)がそれをやることが現時点で可能だろうか?特に結果の管理までとなるとプライバシーも含めて問題が色々あるだろう。

***
細胞診単独法による子宮頸がん検診はリスクが高すぎる。
カロリンスカ研究所・パピローマウイルスリファレンスセンター長 Joakim Dillner

 細胞診単独法単回の感度の低さを考えた場合、彼の指摘は正しい。世界的には生涯で数回(35歳と45歳の2回)の検診を行うことが目標になっている。一回の検診で勝負を決める必要があるのであれば、より感度の高い検査法を行う必要がある。リスクの高い人を見逃して10年間放置するわけにはいかない。危なすぎる🐰

 一方、日本の様に細胞診を2〜3年に1度行える様な環境ではどうか?はっきり言ってこの検診強度の高さ・運用できる医療リソースは一部の先進国しかもたないと言っていい。その様な場合、子宮頸がんの予防に関してHPV検査に移行することの利益は、比較的小さいものになる。感度の低さはその回数で補われていて『細胞診単独法による子宮頸がん検診はリスクが高すぎる』とは一概には言えなくなる。

むしろ、適切に運用できないのであれば、細胞診単独法の方が良いこともありうる。

  • 実施の体制が整った自治体ではHPV検査単独法に移行できる

  • 引き続き細胞診単独法(2年に1度)も推奨される

ということだ。

移行期は色々と混乱があることが予想される。簡単には、その時々・地域の保健機関の推奨に従って『定期的に検診に行くことが重要』と言えるだろう。

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