HPVとはどの様なウイルスか(2):扁平重層上皮と棲家として選んだ、その結果…
少し時間が空きました。
今回は、感染標的とした重層扁平上皮に感染するために進化した性質を理解すると『なぜ現行のワクチンが感染予防ワクチンで、既感染に効かない・重症化(がん化)予防に効かないか』がわかります。それを説明するのが目的ね🐰
HPVが感染標的(ニッチ)とする皮膚・粘膜の構造と仕組み
HPVが感染標的(ニッチ)とする皮膚・粘膜の構造の特徴をおさらいしておくと
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細胞が何層も積み重なった重層構造をしている
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一番底の(体の内側の)基底層の細胞のみが細胞分裂をする。生まれてから、死ぬまで基底層の細胞は皮膚・粘膜の細胞を産み続けている①。
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二層目以降に移動した細胞は、基底層から供給され続ける細胞によって押し上げられ続けられながら(エピダーマルフロー)、細胞の性質を変化させつつ(分化・角化)②。
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最終的には角層細胞となる。角層の細胞は実質的に代謝などを行なっておらず、死んだ細胞の残骸のようなもの③。
皮膚・粘膜は外界と我々の境界を構成する『ウォールマリア』🐰重要な機能は、バリア機能であり、物理的な障壁でもあり、巨大な感覚器でもあり免疫器官とも言える(皮膚からの食べ物由来の抗原感作は避けようね。異物と認識されたら大変だぞ🐰)
このような皮膚・粘膜を感染標的として進化したHPVは、これらの特徴に合わせた・制限されたウイルス生活環を進化させ備えることになります。
①皮膚・粘膜に感染し『長期間』感染を維持するためには、基底層細胞に感染する必要があります。その前には、分厚い重層扁平上皮バリアが存在します
→『皮膚粘膜にできた小さな傷を介して基底細胞に感染します』2層目以降に感染しても、数日から数週間のうちに垢になって剥がれてしまいますね🐰感染を維持するためになんとしても基底層にたどり着かねば🐰
②HPVをヒトという種の中で何万年も繁栄してきました。そのためにはヒトからヒトに感染する必要があります。基底層に感染して基底層でウイルス産生しても仕方がありません。血中にいくらウイルスを放出しても次のホスト(ヒト)に感染することはできません。ウイルスを産生するのは免疫系に見つかるリスクが高くなります(多くのウイルス感染症が数週間のうちに免疫系にコントロールされるのを思い出してみよう。ウイルスを産生するなら、皮膚・粘膜の外層・上層で、そして体の外に放り出すわけですね。
→『HPVは感染してもウイルス血症を起こしません』
③傷を介して次の標的細胞(他人)に直接達する必要があります。麻疹ウイルスやSARC-CoVのように短期間に多くの人に感染を広げるには、標的とした組織が不利すぎる。皮膚・粘膜をニッチとするには長期間にわたって感染を維持し、免疫による制御をすり抜ける必要があります。
→『長期な持続感染を基本とするウイルス生活環を進化させ』『基本的に免疫系にみつかりにくい生活環を進化させた』
これ、実際自然感染による中和抗体の誘導がHPVが感染を繁栄させ続けてきた長い歴史上、全くの問題になっていないことが象徴します。
→ヒト・ヒト間において感染を成立させるには不利な状況があるにもかかわらず『性器外陰を主な感染標的とするHPVが感染が蔓延しているか』
ヒトはほっとくと、多くの場合が性的接触をするのです、しかも何回も何回も繰り返して。長期的に感染病変を維持しているだけで、ホストが次のホストに接種してくれるわけですね。いい感染先を選んだものです🐰
このように、HPVのウイルスとしての(ある意味厄介な)性質も、皮膚・粘膜を感染標的として選んだ、その組織の持つ性質を反映させたことによる当然の帰結と言えます🐰
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- HPVの生活環は二つの異なった段階が違う細胞で行われる
- では、ウイルス様粒子(ワクチン)で誘導される獲得免疫は、感染しているウイルスの排除や病態の進展(がん化)予防に効かないのか?なぜ?
- では、感染している細胞・病態の進展を予防できるワクチンは?
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