ワクチン接種によって子宮頸がんは撲滅できる(英国イングランド)
BBCで報じられた通り、NHS (英国国民保険サービス:英保健当局)は2040年までの子宮頸がん撲滅(Elimination: 10万人あたり年4人以下の発症)を現実的な目標とする・約束できるとした。
2008年より始まった12/13歳を対象としたHPVワクチン接種プログラムが高い接種率を維持しており①2040年頃には子宮頸がん罹患のピークである40歳以下がワクチン接種集団でほぼ置き換えられること②ワクチン接種の対象外である1990年8月以前に生まれた女性に精度の高い子宮頸がん検診を行うことで子宮頸がんを予防できれば、それは達成可能である。
ここでは、2020年に発表された、イングランドにおけるHPVワクチン集団接種が20代の子宮頸がん罹患率にどの様なインパクトを与えたのかを評価した論文について解説し、HPVワクチンの効果が予想通り(以上)のものであるのを見てみよう。
HPV感染してから子宮頸がんが発症するまで10年かかる。
ハイリスクHPV感染から子宮頸がん発症までの自然史を見てみよう。
感染のピークは性的な活動性の高い性的デビューから近い20代にある。HPV感染病変としての前がん病変発症のピークが20〜30代にあり、一部の前がん病変から発症するがんの発症ピークは40歳前後だ。
感染の排除が起こるのかは不明だ。知る方法がないので、起こっていてもいなくても同じなのだが。
この様に、感染からがんとしての発症するまでの時間の中央値は15年程度であり、英国の疫学研究からは
『統計的には感染機会から8年以内にがんとして発症していることはほとんどない様だ』
とされる。
つまり、HPVワクチンの集団接種直後に感染機会があったとしても10年間は子宮頸がんの発症することはほとんどなく、仮にワクチンに効果があったとしても『がんの予防効果としては観察できない』と予想された。これまでは『ハイリスクHPVの検出率の減少』・『異形成・前がん病変罹患率の減少』・『(4価ワクチンであれば)コンジローマ発症率の減少』として、HPVワクチンの実際の有効性は観察されていたわけだ。
今回の論文は、12/13歳時にワクチン接種の対象であった集団が、2019年以降”初めて”がん発症年齢に突入したこと・イングランドの初回検診受診年齢に達したことから、”初めて、子宮頸がん予防におけるワクチン接種の効果が評価できる様になった”ことを報告する論文だ。
実は、2010年に同じグループからの論文(これ)において、子宮頸がん予防にとしてのワクチンの効果について『最初の評価が2019年にできる・20代を通しての評価は2025年にできる』と考察したことに対する答え合わせの論文となる。これが論文の前振りになる。研究者は気が長いね🐰
子宮頸がん罹患率に影響を与える因子はなんだろうか
さて、ワクチンが子宮頸がん罹患率に与える影響を評価したいのだが、ワクチン接種の有無以外にも子宮頸がん罹患率に影響を与える因子は色々ある。
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年齢 (学年によってワクチン接種率とタイミングが全く異なる、検診プログラムも変更があった)
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(ワクチン以外の)HPVへの感染に影響を与える因子、特に性行動の様式の変化
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信条・考え方・教育・社会的因子
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ライフスタイル・喫煙習慣
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検診受診率や検診を受けるタイミング
これらは純粋にワクチン接種による子宮頸がん罹患率の変化を見ようとした時にノイズとなる要素になる。強調されることが少ないのだが、この論文の重要な主張の一つは『この様な要素をどの様に標準化してワクチン接種が子宮頸がん罹患率に与えた影響を取り出して見せたか』になる。単純に増えた減ったって話ではない。そのため、
同質の集団をワクチン接種のあり・なしに分けて比較したものではない。学年をグループとしてワクチン接種の有無関係なくまとめて、学年(Birth Cohort)間で比較した。
この利点は、”学年ごと、比較グループごと”に①ワクチンの接種年齢と接種率が決まる②検診を受けるタイミングと検診受診率が決まる、ことだ。また、学年間では③性行動の様式④信条・考え方・教育・社会的因子⑤ライフスタイル・喫煙習慣が全体として変化がないと仮定できるからだ。
つまり、主に検診を受けるタイミングと受検率を調整すれば、そのほかの因子の調整をしなくて済み(そもそも調整困難だ)HPVワクチン接種の効果を取り出して評価するのに的してるよねって論文になる。
『同質(実は違うが)の集団をワクチン接種のあり・なしに分けて比較したものではない』
よく、ワクチンを接種すると子宮頸がんが87%減ったと紹介されることがあるが、正確ではないのがわかるだろうか。見ていこう🐰
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- 定期・キャッチアップ接種したらどの程度20代の子宮頸がんが減ったのか
- イングランドにおけるHPVワクチン接種のインパクト
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