大人はHPVワクチン接種をするべきか?
2013年から積極的勧奨を中断していたことに対する救済措置としてのHPVワクチンのキャッチアッププログラムが昨年度末で終了した。
日本においてHPVワクチンは9歳から(サーバリックスは10歳から)45歳において承認されているが、保健当局が定期接種の対象とするのは小学校6年生から高校一年生相当までの女性のみ、この年齢を外れると任意でのワクチン接種となり基本的に費用の補助はない。ざっくりいうと保健当局はワクチンの接種を積極的には推奨していない🐰
接種を検討した場合でも9価ワクチン3回接種で10万円近くかかることもある。気軽に決断できる価格ではない。
・つい先日までキャッチアップ接種として20代後半の女性にまであれだけ勧めていたのに。
・ワクチンとしては45歳まで有効性が認められるのに(だからワクチンとして承認しされているはずだ)。
今回は米国における、大人(27歳以上の男女)に対するHPVワクチンに対する推奨に関する文書を紹介し『どのように考えればいいか』を解説する
日本では17歳以上の女性にはワクチンは公的には勧められておらず(公的に勧めるのであれば費用負担はあってはならない:ワクチン接種の原則)、現時点の多くのワクチン未接種者で接種を検討する人たちは今回の話の範疇にいるはずだよね🐰

今回の話で扱わないこと①26歳以下のワクチン接種
条件なしに接種が推奨される。日本では高校2年生以上にはHPVワクチンは積極的に推奨されておらず任意になっている(費用は自己負担だ)。米国では26歳までは無条件で対象となっているのでこの集団の話はしない。米国の保健当局の判断では無料で接種できる・その意味があるとされていて、保健当局の考え方の違い。
将来子宮頸がんの原因となるHPVにざっくり半分の人が感染してしまう・逆にいうと半分の人が感染しておらずワクチン接種に公衆衛生上の意味がある年齢として26歳が選択された。集団で見た場合効果は減弱するが『十分意味がある』とされた。
この様な運用ができる国は世界を見渡すと多くはないが、費用対効果の分岐点に対する考え方の違いになる。
日本においても、期間限定ではあるが昨年度末までワクチン接種の対象となっていた集団だ。接種希望する人は接種の機会があって接種済みとする🐰
今回の話で扱わないこと②男性へのHPVワクチン接種
いや、話をしないのではなく『基本男女関係なく当てはまる話』をするのだが、日本では男性はHPVワクチン接種は公的に推奨されていないから日本では当てはまらない話になる(一部の地方自治体が先行して行っているだけで一貫性のある話ではない)。
HPV感染は男女関係なくおこるし、男女関係なく病気の原因になっているのだから、男女関係なく接種できる。極々普通のことだが、優先順位の問題だ。
日本の保健当局は男性への接種を費用対効果に劣ると、現時点で行なっていない。
すまん。HPVワクチン男性への接種化ハヨ🐰というしかない
まず、前提となる話🐇2019年までのHPVワクチン対象者の変化
今回の文書は2019年に『26歳までの男女は無条件にHPVワクチン接種を推奨する』ことになったのを受けて『では27歳以上にどのような推奨をするか』を扱ったものだ。
米国のHPVワクチンの推奨はこのように変遷した。推奨とは医療サービスの提供者が費用を負担して行え・つまり無料でやれという意味ね🐰
2006年HPVワクチンが承認された時(当初は女性のみが対象であった)
①標準的な接種年齢を11・12歳とする。
②9歳から接種できる
③26歳の女性までキャッチアップ接種の対象とする。
2011年より(男性に対象が広がった)
④21歳までの男性をHPVワクチンの対象とした。
これが2019年時点のRutine/定期接種としてのHPVワクチン接種対象者であった。『2018年に報告された24〜〜45歳の臨床士試験結果を受け、ワクチンが45歳まで承認されたのをうけ』HPVワクチンの推奨が26歳までの『男女』と拡大されたのが2019年になる。それに合わせて27歳〜45歳の男女に対して、どの様に判断されたかを解説する。
米国の保健当局は27〜45歳の男女に対して一律には推奨しない
米国の諮問委員会は審査議論の結果投票14票中10の多数で、27〜45歳の男女に対して一律には推奨せず、shared clinical decision-making (医師と相談の上)『それまでにHPVワクチンを接種しておらず』『新しくHPVを感染するリスクが存在しワクチンの利益が期待できる』一部の人に対してHPVワクチンを推奨することを勧告した。
推奨するということは医療サービス提供者は費用の補助を検討せよということ。自費で接種するのであれば承認もされており自由に接種すれば良い
①定期接種(11/12歳を対象)としてワクチンを接種する場合の費用対効果
費用対効果をここではNNV(number needed to vaccinate:1人のケースを予防するのに必要なワクチン接種の回数)で見てみよう
-
1人のコンジローマを予防するために:9人
-
1人の中等度異形性以上の病変を予防するために:22人
-
1人の子宮頸がんを予防するために:202人
HPVワクチンを接種する必要がある。
逆にここから見えることは(米国では)
・尖圭コンジローマの生涯罹患率は10%を超えること(9人に接種すれば1人を予防できる)
・検診を受けることで見つかってくる中等度異形性・高度異形成の生涯罹患率は4%を超えること
・子宮頸がんの生涯罹患率は0.5%程度であること
がわかる。
②26歳までの男女にワクチンを接種する場合
-
1人のコンジローマを予防するために:40人
-
1人の中等度異形性以上の病変を予防するために:450人
-
1人の子宮頸がんを予防するために:3260人
HPVワクチンを接種する必要がある
定期接種としてワクチンを接種するのと比較すると格段に費用対効果が悪くなるのがわかるだろう。それでも米国の保健当局は条件なしで全ての男女にHPVワクチンを推奨してい。ここまでならコストにみあう利益が『集団において』あるとされている
しつこいが推奨するとは費用は医療提供側が持つということ
③45歳までの男女にHPVワクチンを接種する場合
-
1人のコンジローマを予防するために:120人
-
1人の中等度異形性以上の病変を予防するために:800人
-
1人の子宮頸がんを予防するために:6500人
HPVワクチンを接種する必要がある。
最適なタイミングでワクチンを接種するのに比べるとそれぞれ10倍以上ワクチンの利益・有効性が減少しているがわかるだろう。そして、米国の保健当局はこの集団に対して一律にワクチンを推奨することをよしとしなかった。
公衆衛生的観点から見た場合27歳〜45歳の男女にHPVワクチンを接種することの利益は最小限である
これが結論ね🐰
全員に勧めて・全員に接種してもらっても全体で見たら大して意味がないだろうと結論が出ていて、じゃあどんな人が接種したらいいのかって話だ
①HPVワクチンを接種していない人
2価4価接種者に9価の追加接種はいらないという意味
②童貞・処女
まだHPVに感染していない可能性が高い
③今後HPV新しくHPVに感染する可能性が高い場合
これを(shared clinical decision-making)医師と相談の上、判断することになる。
shared clinical decision makingする上で考慮すべきこと:27歳以上の大人にHPVの接種を考慮する必要は基本的にない
理想的には、HPVワクチンは早期思春期に接種するのが、性的活動を通してHPVに曝露される前であり最も効果的である。27歳以上の大人にHPVの接種を考慮する必要は基本的にない。ワクチンで予防できる将来病気の原因となるHPVに大部分の人が感染してしまっているということ。
ワクチンの出番は終わっている。
①HPV感染は非常に普遍的な性行為感染である。
ほとんどHPV感染は(症状が出たとしても)一過的であり・その多くが無症候性であり・臨床上の問題を起こしていない。
これは、27歳の男女の大部分の人が無自覚にすでに感染していることを説明している。感染を予防するためにワクチンを接種を考えているのだが、もう感染していますよねということ。
②一般的に新しいHPVに感染するのは思春期以降〜若い男女(26歳以下・ワクチンの対象である集団を指す)である。
しかし、一部の大人も新しいHPVに感染するリスクをもつ。何歳であろうと、新しい性的パートナーを持つことは新しいHPVに感染するリスクファクターである。
③長期間にわたってお互いに固定されたパートナーである場合は、お互いに新しくHPVに感染する可能性は低い
お互いに新しいパートナーを持たない限りワクチンが予防できるリスクが発生しないということ。ワクチン接種の利益・これからのワクチン接種で予防できるもの・今からのリスクは大きくないということ。ワクチン接種を検討する必要はないだろう。
④ほとんどのこれまで性的に活動的であった大人の男女は、すでに何種類かのHPVに感染している
HPVワクチンが標的とする全ての型に感染しているというわけではないだろうが。これからワクチン接種をしても、今までに感染しているHPVで将来病気になるということ。ワクチンの効果は小さいことを説明する。
⑤臨床的に実用化されたHPV抗体検査は存在しない
HPVに免疫がある人・HPVに免疫がない人(ワクチンの意味がある人)を特定する検査は存在しない。検査で客観的にワクチン接種の意味があるひとを同定することができない。
⑥HPVワクチンの効果はワクチン接種前に、ワクチンの標的とするHPVに曝露したことがない人に有効である
HPV検査で陰性化したから意味でてくることはない。過去に感染したことがないことが大事。④と合わせると接種の利益が小さいことを説明する。
⑦HPVワクチンの効果は『これまでの通算の性的パートナーが多い人』には効果は低いかもしれない。
がワクチンが標的とするHPVにすでに感染している可能性が高い人にはワクチンは効果的ではないだろう。ワクチン接種で予防できる部分がほとんどなくなっている可能性がある。
⑧HPVワクチンは感染予防ワクチンである。
すでに感染している感染に大して、発症予防効果(異形成)やHPV検査の陰性化までの時間を短くしたり、存在する異形成を治癒するような効果はない。
ここから導き出される結論は『27歳以上の大人にHPVの接種を考慮する必要は基本的にない』とされた。
🐰『まあ(米国のみでも)全員が希望したところで接種できるだけのワクチンが世界には存在しない。そこまでのワクチンの不足が起こっていないことは、日本人が接種できていることからもわかる』
27歳以上接種が積極的になさいる様であればワクチンの製造側は大変喜ぶだろうが。それだけマーケットが大きくなるということ。
米国の場合ここからの運用がちょっと少しおかしい
医学的には参考にならないのだが実際の運用としてですよ🐰
ここまで上げた点を考慮すると、多くの人にとってHPVワクチンの有効性は大きくないだろう(だから公衆衛生上の問題とならず一律に推奨されてないの)。大人に対してHPVワクチンが接種されるということはあまり起こりそうにないのだが。
それにも関わらず『HPVワクチン接種の利益があると考えられれば接種を推奨する』として少なからずの医療提供者が費用を負担してHPVワクチンを接種させている(米国のはなし)。
①米国の医療費を考慮した場合・ワクチンの費用が比較的小さいこと。
これはサービスプロバイダーから見た場合、ワクチンのコストなどなんでもないと考えてしまえるように見える。
『shared clinical decision-making』をするのにだってコストがかかる。医師にコンサルトするくらいならワクチン接種した方が安くないですか?→全員に接種した方が安上がりという判断すらなりたつ。
②将来新しいパートナーを持つ可能性・持たない可能性を誰が知ることができるのですか?
一番重要なことは将来の感染リスクでありそれがワクチンの利益を決める。
しかし、将来の感染リスクを誰も確定的・客観的にに評価できるようにみえない。費用を負担する側の医療提供者側にとっても『将来新しいパートナーをもつ”かもしれない”からリスクがある』ときた医療請求者に対し、それがどれくらい正しいのか判断する方法がない(言っている本人ですらわからんだろう)。
全員リスクがあり・ワクチンの利益があるかもしれないとなる。
結果『アメリカ在住・保険会社に請求したら無料で接種できた』という話になるというわけ。
全体で見た場合大きくHPV関連疾患の負担が小さくなるということはないけれども🐰
英国のNHS (医療提供者)は一言『ワクチン接種の対象としない』
費用対効果が悪い『自費で接種したければどうぞ』となる。接種が意味ある数行われることもない。
まとめ
27歳以上の大人にHPVの接種を考慮する必要は基本的にない
これは世界的にみてもコンセンサスだ。期待される効果は最小限でコストがあまりにも高すぎる。個人で費用対効果を無視して接種を希望し接種する様なものだ。費用対効果を無視するのだから『意味はありますか』という質問は無意味だ。あると信じて打てば良い。
また意味のあるひとを簡単にまとめると。
・処女と童貞
・今までの性的パートナー数が少なく(片手に余るくらい)今からの新しいパートナー数が多い(少なくとも1)
この様な場合はワクチン接種の意味が出てくるだろう。
参考にどうぞ🐰
すでに登録済みの方は こちら