生まれてくる赤ちゃんの気道乳頭腫症を予防しよう:HPVワクチンキャッチアップ対象者の方へ
キャッチアップ接種対象者は考えてみてよ。将来の自分の子供を直接守ることができるんだけどな🐰
若年型気道乳頭腫症(JORRP)は、尖圭コンジローマの原因であるHPV6/11のキャリアである母親から生まれた子供に発症する可能性のある病気だ。
気道に良性の乳頭腫(パピローマ)を多発する疾患で、嗄声が初発症状となることが多いが、乳頭腫の数・範囲・部位によっては気道閉塞をおこし致死的となりうる疾患ね🐰厄介なことが二つ
①治療法の基本は外科的なものになる。とにかくよく再発する。治療を何回も繰り返す必要がある。
②肺に近い側の病変では特に悪性化のリスクがある程度あるとされる点。
コンジローマも厄介だがこちらもさらに厄介で、罹患者が乳幼児から子供になることからさらに大変である。
病因論の観点から言うと
・HPV6/11型の感染が原因であるのはいいとして
・感染者(HPV検出率)と比較して発症者が非常にすくないことから、感染+ホスト側の因子の組合せで病原性がきまる典型的な例と言える
若年型気道乳頭腫症の罹患率はどの程度?
若年型気道乳頭腫症(JORRP)は、アメリカでの報告が多く、年間数千人(正確な統計に欠ける)となるが日本では少ないとされる。いくつかの疫学的調査の数値をざっくりまとめると
・尖圭コンジローマ合併妊婦からの出産例での罹患率は、出産1000人に対し7人(0.7%)程度
・コンジローマがない(診断されていない妊婦全体)であれば、出産1000人に対して0.03人程度
コンジローマがあった場合は、その子供のJORRPの発症リスクは200倍以上になっていそうだ🐰さらには
・過去にコンジローマの罹患歴があった場合、出産1000人に対して1人程度という報告もあり
活動的なコンジローマがある人に比べると低いが、罹患歴がない人に比べると30倍以上大きくなっている可能性がある。不顕性の感染があって感染源になっているのだろう。
帝王切開をすると防げるのか?
これがよくわかっていない。判断が難しい。
感染経路としては出産時の産道感染があるのではないかと考えるのは自然だ。同時に帝王切開で出産をすると罹患率が少なくなるかがはっきりしていない。
・コンジローマ罹患者に対して全例帝王切開を選択すした場合、効果があったとしても7人のJORRP罹患者を減らすために、JORRPを罹患しない993人が帝王切開で分娩することになる。負担が大きすぎる。
・過去のコンジローマ罹患歴がある人にまで広げるのはさらに負担が大きくなり、正当化されないだろう。
・スクリーニングをするとHPV6型11型が陽性になる人は、罹患者や罹患歴がある人の何倍も陽性になる。リスクが高くなっている可能性があるが、スクリーニングをして帝王切開の適応を広げるのはさらにさらに負担が大きくなるだろう。
感染リスクに対してJORRP罹患率は小さいのが問題だ、罹患率は低くでも罹患すると大変なのが問題だ🐰だれだって自分の子供が自分からの感染症で苦しむのをみたくはない。
この様に判断が難しいのだが、コンジローマ罹患中即帝王切開とはなっておらず、ケースバイケースとなる。
より範囲の大きい活動的なコンジローマがあればウイルス産生量も多く感染リスク自体が大きくなるだろう。逆に治癒した・単独の・退縮中の感染であればウイルス産生は少なくなり、感染リスクは小さくなるだろう。担当の医療機関と相談するしかない。
ここで朗報、ワクチンの出番だよ🐰
HPVワクチンの効果で、疾患として一番最初に・簡単に観察されたのは『接種者におけるコンジローマの減少』であった。
コンジローマは感染から比較的短期間(数週から数ヶ月・数年)で発症する(感染者の全てではなく1部)ため、ワクチンの効果も感染機会から比較的短期間で見えることになる(がんでは十年以上かかるのと対比されよ)。
定期接種のワクチン接種者においてコンジローマの罹患率は9割少なくなる。HPV6/11の感染者は95%以上少なくなる。
母親がHPV6/11に感染していなければ、その子供はJORRPが発症することはないだろう(稀だったのが、さらに稀になるだろう)🐰
既感染者や性的デビュー後の接種(キャッチアップ接種)でも遅くはない
HPVワクチンの集団接種導入後の観察研究で分かったこととして、JORRPの罹患率が急速に減少していることが挙げられる。ざっくり8割は減ったし、オーストラリアでは、ワクチン接種した母親からの子供にJORRPは発症していない。
キャッチアップ接種(ワクチン接種前に感染している人がある程度いる集団)でも似た様な効果が見えている。これは
・母親がHPVワクチン接種者だと妊娠中に胎児に抗体が移行する。
・移行した抗体は出産後6ヶ月間は十分検出される。
・HPVワクチンの有効性は血中の中和抗体IgGに依存することがわかっている。
つまり、母親がHPVワクチンを接種していれば、母親がキャリアであってもその子供に出産時〜1年程度はJORRPの原因となるHPVが感染しないと考えられる。
HPVワクチンの若年型気道乳頭腫症(JORRP)予防効果は添付文書に記載されることのないが素晴らしい効能だ🐰
なぜ(現時点で)記載されないかといえば、臨床試験で有効性が示されていないからで、なぜ臨床試験で評価対象とならなかったといえば、罹患頻度が低すぎるから、評価するために必要な集団が大きなものになり現実的ではない(一般集団で1000出産あたり0.03人だ。1人患者が出るのに、3万人出産してもらわなければいけない)。
ワクチンを集団接種を介してみたところ、患者がへっていること(予想はされていたが)が分かったわけ。
喜ばしい。
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