20歳を過ぎていればワクチンの効果ないのか?
HPVワクチンは子宮頸がん予防に有効ではないと言う主張に対し、それを支持する議論ということになる。『効果のないキャッチアップ接種を20代に行っている→不当』ということだ。
もちろん、定期接種と比較すると予防効果は落ちることは議論の余地はないが、20代であっても十分有効性はあるというのが、科学的なエビデンスに基づいたコンセンサスといえる。費用対効果の問題は残ることになり、大抵の国ではやりたくてもやれないというのが実際🐰
20代にワクチンを接種して上皮内癌・浸潤がんが減少しないことを示した文献は実際に存在するが、それでもなお20代の接種に効果があることはざっくり合意されている(提示した文献というのもそれだ)。どうしてそういえるのか?
どのように考えられているか示してみる。もちろんYes.NOでハイ論破なんてことにはならない。

まず、HPVの感染からがん発症の疫学と自然史の理解から。
疫学研究から
①感染のピークは20代前半までにあり
②前がん病変の発症が30歳前後にピークを迎え
③浸潤癌の発症は40歳以降にピークを迎える
ことがわかっている。ここから『子宮頸がんはHPVの数十年にわたる持続感染から発症する』ことがわかった。対抗仮説は『20代の感染はがんにならず、30代以降の感染ががんになる』で前者が正しいとされる。
感染のピークは20代前半まで→新しいパートナーを持つことが感染機会であること、さらには『感染して数年でがんとして発症することはほとんどない』ことを意味する。
ここで、20歳で感染した時と、30歳で感染した時に起こることを見てみると(通算で二人パートナーを持った)

感染しても95%は感染していないので、大抵の場合最後の浸潤癌のところはおこらない
ポイントは、この二つのイベントが、一人の感染者の体の中で同時に起こる。これを一人の人のなかで分けて観察することは難しい。
これに20代のキャッチアップ接種を被せてみると

HPVワクチンは感染予防ワクチンであるから、接種時に感染しているものからおこるHPV陽性・様々な異形成の発症・がん発症は予防することができない。
同時に、ワクチン接種後の感染イベントから発症するものは予防することができる。
では、キャッチアップ接種(20代の接種)で効果が見えないとはどう言うことだろうか。
①ワクチン接種前に感染していたものから、ワクチン接種後もHPV陽性・異形成の発症・がんの発症が起こる。
ワクチン接種の有無に関わらず同じ頻度で発症する。もう一つ重要なのは
②ワクチン接種の有無で差が出るとすれば、感染イベントが発生してから+数年(十数年)経ってから
これは、ワクチンの効果が数値として出るには
(A)ワクチン接種後に集団中で感染イベントが十分発生する必要がある。
これはどのワクチンも同じだが、コロナであれば接種後市中に放り出しておけば、数ヶ月以内に山ほど感染イベントが発生するだろう。HPVの場合はどうか?HPVの感染イベントは新しいパートナーを持った時だ。正確にいうと『次に新しくパートナーを持って性交渉をした時』かつ『集団ないでそれが一定起こった場合』になる。
仮に、ワクチンを接種してから半分の人が新しいパートナーを持つのはどのくらいかかるだろうか。数ヶ月ではあるまいよ🐇
(B)感染イベントが十分発生(半分の人が新しいパートナーを持って)から、各イベント(高度異形成やがん)が発症するのに、10年の時間が必要である。
高度異形成であれば発症のピークは数年後、がんであれば軽く10年はかかる。
この(A)と(B)を合わせると、20代でワクチンを接種した場合に、集団中の有効性として観察されるのには、少なくとも10年以上かかることがわかる。30代の子宮頸がんが20代のワクチン接種で予防されるとは考えにくい(若ければ若い時に接種したほど、30代後半以降のがん発症であればあるほどチャンスはあるだろう)
実際これは12歳で接種しても同じことだ、12歳以降感染イベントが発生して発癌するまでも同じ様に時間がかかる。意味のある数子宮頸がんが発症するのは24歳以降なので、接種後12年経ってようやく差が見え始める。20歳ではワクチンを接種していてもしていなくてもがんは発症しないから差が出ない。
最初に戻ろう

接種からの観察期間が短い部分に対する文献を提示して『効果がない』と言っている。
コンセンサスは
『観察期間が短く、効果が見えると考えられないが、予想された通り見られなかった』
になる。
これが現在のオーストラリアで過去10年間に観察されていることだよ🐰
HPVワクチンの効果をみる時、ウインドウピリオド(接種完了から効果判定をするまでの除外期間、コロナのワクチンなら2週間だね)を長く取るほどHPVワクチンの有効性は大きくなる傾向になる。
年単位の話で、これはHPVの感染からがん発症の自然史から見た場合当然予想できること🐰
もう一つ、引用しよう🐰

これは角田先生の返答と話が噛み合っていない。
高橋メアリージュン氏は典型的なキャッチアップ接種対象世代として20代での接種であった。ワクチンの有効性がある程度落ちることが想定され、ワクチンの効果がないことを支持する例としては不適切だ。しかも。
高橋メアリージュン氏が罹患したのは、高度異形成であって子宮頸がんではない。
4価ワクチンは20代の子宮頸がんに対する予防効果は90%程度とされるが、高度異形成に対しては50%程度とされる。高度異形成はがんではない。
ワクチンを接種しても子宮頸がんになることを支持する例(ワクチンに意味がないことを指示する例)としてはただ単に不適切だ。
”法廷での議論であれば”通用するのかまったくわからないのだが、医学的・科学的には頓珍漢で、原告側の代理人が全くわかっていないことを示している。原告の主張に対して最大限利益となることを目的とした尋問としてはお粗末すぎるのだが、真面目にやっているのかすら疑う🐰
20代以降のワクチン接種が有効であることに関する議論もどうなるか予想がつくだろう。少なくとも、批判・議論するのであれば、アメリカで行っている『26歳までのワクチン接種を推奨』に関する議論ぐらいは抑えてあるはずだけどね。
法廷でのこの辺のやりとりは、科学的には全く意味がない。