HPVワクチン、世界戦略の焦点はインドだろ🐰異論は認める
子宮頸がんは、かつて先進国においても主要ながんの一つだった。しかし過去50年間、組織的な検診体制の確立と『前がん病変の段階で発見し治療する』という戦略によって、その負担は着実に減少してきた。
パパニコロウ検査に代表されるスクリーニングは、浸潤がんになる前に介入するという極めて合理的な公衆衛生モデルを確立した🐰(定期検診にいってね)
その結果、現在では子宮頸がんは、疫学的には『中低所得国のがん』という側面を持つに至っている。先進国でも依然として検診のコストと医療負担は大きいものの、死亡や進行がんの負担は明確に抑え込まれている。
特にサハラ以南アフリカは、長らく最大の高負担地域であった。しかし近年、Gaviを通じたHPVワクチン導入が進み、接種カバレッジは着実に上昇している。国によってはヨーロッパ平均を上回る水準に達しており、全体平均で見ても決して低いとは言えない。ワクチンという一次予防のツールが、最も高リスクな地域に届き始めていることは、歴史的転換点🐰(我々は前進している)
(一方で、ヨーロッパにおいても接種率は一様ではない。西欧諸国と東欧諸国との間には大きな差があり、特に東欧では依然として低接種率が課題となっている。これもどうにかしたいぞ🐰)
では次はどこか。
アジアだろアジア🐰
そして、その中核にあるのがインドだ(中国の話は今度な・マレーシアとは共同研究もしていて言いたいことがあるぞ🐰)
世界最大の人口を抱え、世界の子宮頸がん症例の約4分の1が発生する国。ワクチン接種率は依然として低く、組織的検診も限定的。この国をどう動かすかは、子宮頸がん撲滅戦略全体の成否を左右する。
インドの置かれている状況
しかしインドにおける HPV ワクチンの導入は、必ずしも一直線の道ではなかった(日本と似ているところがあるよ。形は違うけど)
2008年世界的に有効性が確認されたHPVワクチン(ガーダシルやサーバリックス)は、インドの民間市場に導入されたもののその高価格ゆえに広く普及しなかった(当たり前🐰)。
さらに2009〜2010年に国の保健機関と国際NGO”PATH”・ゲーツ財団が協力して『約2〜3万人規模の HPV ワクチン導入プロジェクト』が実施されたが、数名の少女が死亡したとの報道と倫理面の問題が大きな論争となった。その後、インド政府はこの臨床試験・予防接種プログラムを停止し、倫理的対応やインフォームドコンセント手続の不備に対する調査が行われる事態となった。これらの出来事は HPV ワクチン導入全体の進展を長らく遅らせる結果となった。
(一方この出来事が、HPVワクチン一回接種に向けた道を拓くことになったのはこちら🐰)
その後も、国家的な予防接種プログラム(UIP)へのHPVワクチン導入は何度か提案されているものの、予算配分や実装指針の遅延が続きインドは足踏み状態が続いてきた。
その間、インドを取り囲む国々は次々と国家プログラムへの導入を進めている。
ネパール・ブータン(ルワンダと合わせて中低所得国の大成功例)・バングラデシュ・スリランカ・ミャンマー・タイ・ラオス・カンボジア・さらにはパキスタンやアフガニスタンに至るまで、多くの隣国がすでに国家レベルでHPVワクチン接種を開始している。
南アジア・東南アジアにおいて、インドはむしろ例外的な存在となっていた。
2022年、国家免疫技術諮問グループ(NTAGI)は、HPVワクチンをUIPに組み込むことを正式に推奨し、政策上の大きな転換点を迎えた。それから3年以上がたった、まだ全国一律展開には至っていない。
(国家方針としては全国導入を目指しているものの、現時点では州ごとの段階的導入が進んでいる状況である。これは、日本における男性への公費補助が自治体単位で進んできた状況とどこか似ている。あ、国家方針として日本では男性接種は目指されていないな🐰すまんの)
インドでのHPVワクチン導入は簡単なお仕事ではない🐰
①対象人口規模の問題🐰インドは毎年およそ1,200万〜1,300万人規模の思春期女子コホートを抱える。単年度で全国一斉導入を行えば、必要となるワクチン供給量は世界的にも最大級となる。
②財政的インパクトである。単価が低減されたとしても、全国規模での導入は巨額の予算を要する。段階導入は、財政平準化という現実的判断とも言える。
③供給体制の問題である。国産ワクチンの生産能力、輸入ワクチンの確保、Gavi枠の活用可否など、供給の安定性は政策決定と直結する。
そのため、国家方針としては導入を決定しつつも、実装は州単位・段階的に進めるという選択が取られている(もう一歩だ)。
それで🐰どのHPVワクチンにします?
問いは単純に見えるが、実際には「どの製品を選ぶか」という問題じゃないよ🐰
・まず問うべきは『インドにとってどのようなワクチンが必要なのか』だ
インドが求める条件は、次のようなものになるはず…
①価格: 毎年1,000万人規模のコホートを対象とする以上、1回あたり数ドルの差が国家予算全体に直結する。MSDやGSKのワクチンは、効果が証明されているとはいえ、インドが大規模導入するにはコストが高すぎた。 国家予防接種プログラム(UIP)に組み込むには、単価のハードルは極めて現実的な問題🐰🐰
②安定供給:段階導入から全国展開へ移行するには、数千万回分規模の継続供給が保証されなければならない。2020年前後、世界のHPVワクチン供給は逼迫していた。 当時の年間生産量は約6,000万接種分。2回接種とすれば約3,000万人分である。
インド単独でも全国導入すれば、それだけで世界供給の大きな割合を占めることになる。
全部もってこい!(似たようなことを日本も積極的勧奨再開時にやった。接種率が上がらなかったから問題とならなかったが)
つまり、理論上は導入できても『実際に打つワクチンが存在しない』というのが現実だった🐰
③政治的・社会的受容性:過去のPATH騒動の経験を踏まえれば「海外主導」「外資製薬依存」と見なされる構図には慎重にならざるを得ない。ワクチン政策は科学だけでなく、主権と世論の問題でもある。
④実装の現実性:接種回数、保管条件、州ごとの展開可能性など、インドの医療インフラに適合することが不可欠である。
これらを満たす解は何か。
インドの答えは…『自国で開発することである(COVIDでもハイライトされたが、インドは世界最大のワクチン生産国だ)』
約10年をかけ、国内製薬企業と研究機関が連携し、国産HPVワクチンの開発が進められた。そして2022年インド初の国産四価HPVワクチンが承認されるに至った。
これは単なる製品開発ではない。 価格、供給、安全保障、そして政治的自律性という複数の条件を同時に満たそうとする国家戦略でもあったわけ🐰
問題は“何を打つか”より“打てるか”🐰
インド初の国産四価HPVワクチンは、価格面で大きな優位性を持つ。 報道ベースでは1回あたり数ドル水準とされ海外製品より大幅に低価格である。
さらに、
・国内生産による供給主権 ・長期的な価格安定 ・外資依存回避という政治的受容性
という意味を持つ(これが大きい🐰)
長期戦略としては、国産ワクチンを軸に据えるのは当たり前だ(9価の開発も進んでいるし、将来的にはHPVワクチン輸出国になるだろうし)
しかし問題は「長期」ではない。導入初期の供給の山をどう越えるか(なるべく早く・なるべく多くの人に届けるのであれば。ゆっくり導入でいいのであればゆっくりやればよい。そのうち実現する🐰解散!)
核心は一つ🐰『導入期に必要となる供給量と現在の生産能力のギャップ』
インドの単年コホートは約1,000万人規模。 仮に1回接種として単学年のみで開始しても、初年度に必要なのは1,000万回分を超える。
しかし現実の導入では『9〜14歳のマルチコホート』や『少なくとも2学年同時導入』が検討される。 その場合必要供給量は2,000万〜6,000万回分規模に跳ね上がる。
現実解はハイブリッドだろう(早く実施したいのであれば🐰)
ここ数年の問題であれば核心は『生産・供給能』だ。
導入時数年度に必要となる数千万回規模の供給を、現時点の国産ワクチンだけで即座に満たすのは容易ではない。 であれば、供給量を確保するために海外製ワクチンを一時的に活用することは、合理的な選択肢になるはず。
インドは2026年までHPVワクチンに関してGavi支援対象国(2学年分の供給の確保)である(その後の延長可否はしらないが、国産ワクチンがあるなら不要に見える)。 この期間中は、Gaviを通じた支援価格での調達が可能である。
Gavi価格は通常の市場価格とは異なる。 支援枠での4価ワクチン調達は、一般的な商業価格ではなく、国産ワクチンと大きく乖離しない水準での調達が可能
つまり…
・供給は確保できる ・価格は国産と同等水準で調達可能 ・導入初期の需要ピークを吸収できる
という条件がそろう🐰
生産・供給能力がボトルネックである以上、 導入初期にGavi枠を活用して海外製ワクチンも合わせて開始し、その後の一学年ぶんの需要に対する国産ワクチンの供給能力に移行する。そして余剰分は海外に輸出する。
これはイデオロギーの問題ではなく、時間と数量の管理の問題。
早く始めることを優先するなら(そしてそれが重要だ)答えは簡単🐰(すると、イデオロギーの問題が入ってくるけど)
明るい材料もあって…
インドではすでに、大規模な医療従事者へのトレーニングや実装準備が進みつつある(このニュースとか)。 ポリオワクチン導入時にも見られたように、制度が動き出すとき、現場は一気に加速することを期待する🐰
供給の問題さえ整理できれば、実装のエネルギーは十分にあるはずだ(そしてそれをちょっとだけ後押しできるとしたら🐰さんは幸いだ)
最後に🐰で、どのワクチンにする?
それを決めるのは諮問委員会だ。 要求性能、安全性、費用対効果、供給安定性を総合的に評価して選択されるだろう。
現在インドで選択肢となるのは、
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国産4価
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MSDの4価
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MSDの9価
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GSKの2価
になる。
理論的には、いずれもHPV16・18をカバーしている以上、公衆衛生上の目的は達成可能だ。 その意味では『どれを使ってもよい』とも言えるが、ここまで議論したように、国産4価(から国産9価への移行)を長期軸とするのが自然🐰
その上で、導入初期の需要ピークをGavi枠で補完するのであれば、
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MSDの4価が国産4価との抗原構成の一貫性という点で整合的である。将来的な国産移行を前提とするなら、戦略的に分かりやすい。
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GSKの2価およびWalvaxの2価(セコリン)は、価格面で若干の優位性を持つ可能性がある。特にセコリンはGavi供給実績もあり低価格が強みがある。
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いずれもGavi価格であれば通常の市場価格とは異なり、国産ワクチンとの価格差は大きくない水準に収まる。
ということになる。
したがって、導入初期にGavi枠を活用して供給を確保する戦略は合理的であり、4価か2価かの選択は効能の一貫性と費用対効果のバランスの問題となる。
9価は将来拡張の議論であり、導入初期のボトルネックとは別次元の話。
ここまで来ると、中心は科学ではない。実装設計の問題🐰
ゆっくり行くのなら国産4価で話は終わりね