HPVワクチン1回接種:「1回で十分」と言えるのはどこまでか
そもそもなぜ3回接種することになったのか
HPVワクチンが3回接種として導入されたのには明確な理由がある。当時のワクチン学に基づく、合理的かつ保守的な設計思想が背景にある。
① コンポーネントワクチンであること
HPVワクチンはウイルス様粒子(VLP)を用いたサブユニット(コンポーネント)ワクチンである。生ワクチンのように体内で増殖するわけではない。そのため、強固で持続的な免疫応答を誘導するには複数回接種が必要である、というのが当時の一般的理解🐰
実際、多くの不活化・サブユニットワクチンは、初回接種(プライミング)に続く追加接種(ブースト)によって抗体価を増強し、長期免疫記憶を確立する設計がとられている。HPVワクチンもその枠組みに沿って、0・1(または2)・6か月の3回接種スケジュールが採用された。
② 「感染予防ワクチン」であること
もう一つ重要なのは、HPVワクチンが「発症予防」ではなく「感染予防」を目的として設計された点。
HPVは粘膜上皮に感染するウイルスであり、感染成立前に中和抗体が存在することが理論上不可欠と考えられた。しかし、感染を確実に阻止するために必要な中和抗体価は当時明確ではなく、現在でも厳密に定義されていない🐰
自然感染によって誘導される抗体価は一般に低く、個人差も大きい。自然感染で誘導された抗体が再感染をどの程度防ぐのかについても、明確な結論は出ていない。
また、この問い自体にも限界がある。HPVは持続感染するウイルスであり、将来のウイルス検出が「再感染」なのか「再検出」なのか厳密に区別することは難しいし、再感染そのものが病態の主要なドライバー(がんへと進展すること)と考えられているわけでもないからだ(ワクチンは感染前に接種するものだ)
それでも間接的な証拠は積み重なっていて…
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同一個体内でHPV感染が無制限に拡大しないこと
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動物モデルにおいて、検出感度以下の抗体価でも感染予防効果が示されること
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ワクチン接種コホートでは、抗体が測定下限未満の者を含めても感染が実質的に抑えられていること
これらから、感染予防に必要な抗体価は当初想定されたほど高くない可能性が示唆されている。そしてそのことが1回接種を支持する背景にもある。
しかし、ワクチン開発当初はそのような知見は十分ではなかった。したがって、安全側に立ち、自然感染後抗体価を数十倍から100倍規模で上回る中和抗体価を誘導することが目標とされた。
③ 3回接種は「保守的で合理的」な設計だった
臨床試験の結果、3回接種は1回接種と比較して明らかに高い中和抗体価を誘導することが確認された。
当時、感染予防に必要な抗体閾値が不明である以上、「より高い抗体価を確実に誘導する」という設計は合理的であった。すなわち、3回接種は過剰な設計ではなく、不確実性のもとで安全側に立った、科学的に妥当な戦略だったと言える。
実際、現在でもワクチンによる中和抗体の誘導が弱いと考えられているグループ(HIV感染者・臓器移植を受けたもの・自己免疫疾患の治療で免疫抑制剤をしている、2回接種適応以上の年齢の場合など)は3回接種が基本となっている。
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