インドにおけるHPVワクチン全国導入時の製剤選択について

忘備録🐰(前回のレターは一週遅れると陳腐化するところだった)
アマミノクロウサギ 2026.03.01
誰でも

2026年、インドは全国規模でHPVワクチン接種プログラムを開始した。2月28日、モディ首相はアジュメールにおいて、14歳女子を対象とした全国的なHPVワクチン接種キャンペーンの開始を宣言した。

キャンペーンの最初のワクチン者と首相

キャンペーンの最初のワクチン者と首相

世界最大の人口を抱え、世界の子宮頸がん症例の約20〜25%を占めるとされるインドにとって、本疾患は女性の健康における重要な公衆衛生課題。今回の全国導入は、子宮頸がん撲滅に向けた“戦い”に、世界最大の人口国が本格的に乗り出したことを意味する🐰

同時期に中国でもHPVワクチン接種プログラムが開始されたことを踏まえると、2026年は子宮頸がん予防の世界的展開において一つの転換点となる(その成否の重要性を含めて)

今回は、こうした状況のもとで行われた導入初期の製剤選択について、その背景と判断の視点を簡単に整理しておくね

前回のレターはこちら

インドのワクチンに必要な条件

🐰『何を打つかではなく、何を打てるか』

インドが満たさなければならない条件は、おおよそ次の四点(前回まとめた)

① 価格

年間約1,000万人規模のコホートを対象とする国家プログラムでは、1回あたり数ドルの差が国家予算全体に直結する。MSDやGSKのワクチンは有効性が確立されている。しかし、全国規模で国家予防接種プログラム(UIP)に組み込むとなると、単価の問題は極めて現実的な制約となる。

「良いワクチン」では足りない。持続可能な価格であることが前提となる。

② 安定供給

段階導入から全国展開へ移行するには、数千万回分規模の継続供給が保証されなければならない。

2020年前後、世界のHPVワクチン供給は逼迫していた。年間生産量は約6,000万接種分。2回接種とすれば約3,000万人分しかなかった。

ここ数年、世界的なHPVワクチンの供給状況は劇的に改善している。と言っても、インドが単独で全国導入したとしても、それだけで世界供給の大きな割合を占めることになる。簡単にいうと、その量のワクチンをどこから持ってくるのか?

理論上は導入可能でも、実際に打つワクチンが存在しないという状況が現実にあり得る

(実際日本の定期接種勧奨再開・キャッチアップ制度においては『全員が希望すると接種するワクチンが存在しない状態で行われた。接種を希望する人がそれほどいなかったから”あまり”不足しなかっただけだ🐰)

③ 政治的・社会的受容性

過去のPATH騒動の経験を踏まえれば、「海外主導」「外資製薬依存」と受け取られる構図には慎重にならざるを得ない。

ワクチン政策は科学の問題であると同時に、主権と世論の問題でもある。

④ 実装の現実性

接種回数、保管条件、州ごとの展開能力など、インドの医療インフラに適合することが不可欠である。

政策は、机上で成立するだけでは意味がない。現場で回ることが条件となる。

***

これに対し、🐰さんは『ハイブリッド型が現実的』とした

2026年まで、インドはHPVワクチンについてGAVIの例外的支援対象であった。加えて、GAVIは2学年分の供給を確保していた。

この枠組みを活用し、

  • 初期の大規模需要は国産とGavi経由で補助的に確保する

  • 価格的整合性(GAVI4価ガーダシルと国産4価の比較)を維持する

  • 将来的に国産四価ワクチンへ段階的に移行す(未来の話やな)

というハイブリッド型は、合理的に見えた。

国産四価ワクチン Cervavac は価格面・供給主権の観点で長期的に整合的であるけど、導入初期の急激な需要増を単独で支えるには足りない。

したがって、

「短期は国際枠組みを活用し、長期は国内製造へ移行する」

という二段構えは、価格・供給・政治的受容性を同時に調整する一つの現実解だったと考えられる。

🎊実際のワクチン選択🎊

インドの全国的なHPVワクチン接種キャンペーンで、導入初期に採用されたのはGAVIの協力のもと「Gardasil 4(四価)」となった。
つまり「国産の即時採用」ではなく、少なくとも導入初期は “打てるワクチン”として国際調達(GAVI)+実績のある製品(Gardasil) を組み合わせて立ち上げた形になった。

一回接種プログラムで2学年分(2年分)2600万接種分の供給をGAVIは約束している。

***

🐰(GAVIからの調達で数は足りるとはいえ、国産ワクチンを可能な範囲で使用することは可能だったはずだけど)

これが今回の忘備録の趣旨ね

少なくとも最初の2年間は、実績のあるMSD社のガーダシルが使用され、国産Cervavacはその後(になるのか)

この理由がこちらの記事にあった。

  • インド血清研究所が開発したこの国産ワクチンは、まだWHOの承認を受けていない。

「WHOの承認を受けていない」という表現は、WHO事前認証(Prequalification, PQ) をさし…

  • 製造・品質管理・臨床データが国際基準を満たしているか

  • 国際調達(特にGavi・UNICEF経由)で使用可能かどうか

の認証を受けていないことをさす。一方でCervavac はインド国内では規制当局の承認(National Regulatory Approval)を受けている。全性・免疫原性・製造品質について、インド国内基準では認可されていて「国内で使用可能である」という意味。

🐰なのでこの理由は焦点がボケていて本当の理由ではないだろう(GAVI経由の調達を前提とすれば一番の理由になるが、直接調達すれば関係ない話だ)

  • Cervavacを用いた単回投与レジメの有効性も確立されていない

供給量の問題と単回投与レジメがないこと、これが今回Cervavacが採用されなかった1番の理由になるだろう🐰とにかく

全国1200万人の対象者に1回接種するのも大変なのに、2回接種するのは実施のハードルが高すぎる。ワクチンの供給の点からも実施の面からも一回接種を採用するのは必然だった

一回接種に関してある程度のエビデンスが蓄積されているガーダシルに対してCervavacの臨床試験は現在進行中でその結果は2027年に出ることが予想されている。Cervavacを採用するとなるとその後になるのだろう。

必要なすべての量に対し供給が妥当な価格で確保されていることから『現時点では』GAVI経由でのガーダシルが採用されたわけだ。

(GAVIは2回接種レジメでも対応できるよう2学年分(2回接種一学年分)を確保していた・どっちを採用しても一学年は接種できるようにしていたことも注目ね🐰)

(接種回数の最終判断は国内の技術諮問機関に委ねられる。Gaviはその決定に対応できる数量を確保していた、という意味🐰)

  • Cervavacの使用については、後日改めて判断する可能性があります

🐰判断するべきだ

2回接種か、1回接種か🐰

HPVワクチンが1回でいいのか2回でいいのかはこちらのレターでまとめた🐰まとめると

① 低リソース国

低・中所得国では、問題は「理想」ではなく「導入できるか」である。

2回接種を前提に導入が遅れたり完遂率が低下するよりも、1回接種で早期に広くカバーする方が公衆衛生上の利益は大きい。

ここでは『多少の不確実性があっても「ゼロよりははるかに良い」という判断』が成立する。

1回接種は理論的簡略化ではなく、実装可能性を高める選択肢である。

② 高リソース国

一方、すでに2回接種体制が確立している国では前提が異なる。

供給は安定し、完遂率も高く、長期データもある。ここでの問いは『導入できるかではなく減らしてよいか』になり。

比較対象は「ゼロ」ではなく、すでに機能している2回接種体制になり『不確実性は“許容するもの”ではなく、“上乗せしてよいかどうか”』が問題となる。

🐰2回接種できるのであれば2回の方がいい(少なくとも現時点では)

これに対して先に引用した記事ではインドの保健当局の考え方(不確実性の管理)が垣間見れて面白い。

専門家らは以前『2回目の接種を1回目の接種から3~5年後に延期すること』を提案していた。これにより、製薬会社にはエビデンスを構築する時間的余裕が生まれる。結果「1回接種の有効性がデータで証明されれば、2回目の接種は省略できる」

🐰2回目は省略できる場合省略するものだ。必要ならば接種すればよい。

2回の接種間隔を延長することは、各国がHPVワクチン接種キャンペーンを導入する際にワクチンの供給不足を乗り切るため、WHO戦略諮問専門家グループによって推奨された実績がある(過去に英国とカナダのケベック州で同様のHPVワクチン接種間隔延長を実施した実績がある)両国の経験では、6ヶ月後に2回目の接種を受けた人と3~5年後に接種を受けた人の両グループで、抗体レベルは同程度だった。

🐰導入初期に必要な膨大な需要に対して”とりあえず”一回接種を行い、必要であれば数年(10年)遅れて2回目を実施すればよい。

これらの選択も現実的な実装の方法となる。そして、1回接種の不確実性に対応する形であることに注目。さらに、それが検討された形跡があることが注目に値するだろう。

***

いずれにせよ『賽は投げられた』90日間予定されているHPVワクチン接種キャンペーンの結果が楽しみだ🐰

関係各位・保護者・接種を受ける女子にエールを

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