HPVワクチン男子への定期接種化は今のままでは無理ゲーだ🐰

何が問題で何が議論されているのか、それでもなお実現するにはどうしたらいいか。
アマミノクロウサギ 2025.10.13
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HPVは男女ともに感染し・男女ともに病気の原因となっていて・男女ともに安全で有効なワクチンが存在する。男女ともにHPVワクチンを接種する・できることが当然だ。

簡単な話だ。そもそも男女分けて考える必要がない(でもなぜそうなったかは論じる)🐰

2025年9月25日『第31回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会 予防接種基本方針部会 ワクチン評価に関する小委員会』において『(3)HPVワクチンの男性への接種について』が議論されたが、資料を参考にする限り議論が進んだようには見えない。問題設定からも急に進むとは期待されていなかったから当然とも言える。

今回は、『第31回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会 予防接種基本方針部会 ワクチン評価に関する小委員会』の資料から、HPVワクチンの男子定期接種化の現状・考え方について解説する。

行ってみよー🐰

ワクチン(治療法や薬剤でも同じ)を公費で負担して接種するために必要な三つのこと🐰

①ワクチン接種に効果があること・効果があることを支持する定量的なエビデンスがあること

ある疾患・病態が存在して、それに対する有効な介入(この場合はワクチン接種)が存在することが大前提になり…

②ワクチン接種が安全であること・それを支持する定量的なエビデンスがあること

その介入(この場合はワクチン接種)が安全であることがわかっていれば

そのワクチンは接種する意味がある

ことになります🐰

HPVワクチンは男性にも効果・利益があり安全であることはわかっています。簡単な話です(*自費で勝手に接種するのであれば)

問題は、公費で負担して接種する意味があるかどうかで、次の議論が必要になります。

③ワクチン接種が費用対効果上公費負担が正当化されること

効果があって安全であれば接種する意味がある🐰ただしそれだけでは公費負担(定期接種)すべきであるわけではない

自分でコストを負担して接種するのであればこれは全く問題ならなくなります🐰

どんなに費用対効果がわるかろうと理論上『全く意味がない』ということなく『害が大きい』のでなければ、お金を出す本人が納得しているのであれば何も問題ありません。公費負担・保険診療の対象になるということは、コストに対して効果の比率が一定の基準以上であることが求められます(難病など費用対効果の考え方が違う疾患群あるのはおいといて)。

もし安全性・有効性の確認された医療技術は「すべて公費負担・保険適用する」ことを原則とする・できるのであれば議論は不要になり、男子がHPVワクチンの定期接種の対象になっていないことはただの怠慢ということ🐰
実際はそうではない

公費・保険診療がカバーすべき公衆衛生上・集団医療上の問題の全てに対して対応するだけの公衆衛生・医療に対するリソースを我々は持っていません。単純な話で持てるリソースで最大の利益・効果を生むよう効率的に使う必要があります。

・麻疹やポリオのワクチンが導入できていない状況なら、HPVの公費負担は議論にならないでしょう。麻疹やポリオのワクチンの導入の方が優先順位が高いのは明らかです。

・国民一人当たりの公衆衛生・医療に対するリソースが年50ドルである国があったとして、HPVワクチンはその50ドルからお金を払って公費負担で導入することが正当化できるだろうか。50ドルしかリソースがないのであれば他により重要な課題がある。ひょっとするとワクチン接種が5ドルでできるなら採用されるかも(日本はどれだけ払ってましたっけ?)

費用対効果:結論はでている・でも出ていない・やっぱりでてる🐰(何言ってんだ)

https://gemmed.ghc-j.com/?p=39759

https://gemmed.ghc-j.com/?p=39759

ここで量的・程度の話をわかりやすくるために(自身はないけど)一つだけ数値・数式を持ち出します。費用対効果を評価する時に基準を決めて数値的に評価するもので、ざっくり『一定の効果(健康な状態での1年間の生存を延長する)』に対して『どのくらいその介入に費用がかかるのか(差分)』の比です。

ICERといって単位は”万円/QALY”ね🐰 日本では600万円/QALY以下であれば妥当な費用対効果だとして、保険適応や公費負担が正当化されると考えます。。

ICERの計算は、当然分母に何を置くか・分子に何を置くかによって変わるわけです。そしてこの『何を分母に・分子に置くかは絶対的に正しい答えが一つある』わけではありません。そして、あるものを置いた答えは『結論が出ている(男子の定期接種化は妥当ではない)』だけど、別のものを置いた答えは『出ていません(まだ検討していない)』。とは言っても、もし別のものを置いたとした場合の答えは(少なくとも世界的には)『出ている(男子の定期接種化は妥当だ)』わけですね。

そのため、HPVワクチンの男子への定期接種化の是非は『費用対効果の条件上正当化されるかどうか』ではなく『分母と分子に何を置くことを選択するか』の問題で、科学・医学の問題ではなく・行政・政治的な問題・どのように男子へのHPVワクチンを運用するかの問題ということができます。

じゃあ、見ていくわ🐰

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続きは、8375文字あります。
  • 男子へのHPVワクチンの定期接種化は費用対効果が悪すぎて話にならない🐰
  • やっぱり男子へのHPVワクチンの定期接種化は費用対効果が悪すぎて話にならない🐰
  • 男性にとってHPV関連がんは負担が大きいものではないのか?
  • 子宮頸がん罹患の女性への負担がこれほど大きいのはなぜなのか。
  • HPVワクチンを男性が接種することによる女性への間接効果(集団免疫効果)を考慮しても、男子へのHPVワクチンの定期接種化は費用対効果が悪すぎる🐰
  • それでも多くの定期接種採用国で男子を対象とすることが進められているのはなぜか?
  • HPVワクチンの男性への接種は、平等の観点からのみ正当化できる
  • 同時に女性のみが公費負担の対象となることも正当化できる
  • 男性への定期接種化を費用対効果上正当化できませんかね🐰『できる。結論は出ていて選択の問題』
  • 費用対効果上正当化できるところまでHPVワクチンの調達価格を下げればいいじゃない🐰
  • HPVワクチンの効果・利益は抜群によい。実際HPVワクチンの費用・コストはマイナスとなる🐰
  • 『15歳までに接種して、30(35)歳までは検診もなく忘れていい』
  • これまで見た観点から、この署名活動の主張を見てみると
  • 9価ワクチンが男性にも適応が拡大しましたが…費用対効果上はハードルが上がった🐰そのことに気づいています?

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