我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか
どこまで行っても卵と鶏問題と同じようなものだ。行ってみよう。
パピローマウイルス(PV)とは何か・定義
ウイルスの本体は遺伝情報だ。ウイルスの遺伝情報(ウイルスゲノム)がどのように構成されるかによってウイルスは同定され・定義された。
細胞から細胞にウイルスが感染する時、細胞から離れて”細胞外”にウイルスがいる場合、ウイルス粒子の形態をとる。よく、電子顕微鏡写真で”ウイルス”として見せられるもので、ウイルスゲノムがウイルス殻やエンベロープに包まれたものになり、感染性がある(他の未感染の細胞にウイルスゲノムを届けることができる)。
分子生物学(ざっくり遺伝情報・DNA・RNAの配列がわかること)の登場以前と以後でウイルスの分類や定義は大きく変わるのだが、沼なので、分子生物学の登場以後の話にフォーカスする。
DNA配列を使わない場合、パピローマウイルスとポリオーマウイルスはまあ区別がつかない。どちらも環状DNAをゲノムをもち、違いといえばポリオーマウイルスがちょっと小さいくらいだ。見た目もエンベロープを持たず、正20面体構造をしている。まあ、パポバウイルスとして同じ分類にされていた時もあったくらい。
ところが、DNA情報が利用できるようになると、パピローマウイルスとポリオーマウイルスは、全く違うウイルスであると言えるし、見分けるのも簡単になる。
🐰さんは”研究対象として”結構好きなんだけど、人類に感染して多大な迷惑をかけてるHPV16を例に取って見てみよう。HPV16のウイルスゲノムを見てみよう。ポイントは2つ
・環状DNAであること
・ウイルスゲノムが持つ遺伝情報の構成:ここでは蛋白質をコードする遺伝子と調節・複製領域のこと

今回はhttps://pave.niaid.nih.govにお世話になる
ここで、E1・E2・E5・E6・E7・L1・L2が、それぞれの蛋白質をコードしうる連続した配列で、簡単に長い順番につけた。EとLは発現するタイミングが違うのでEarlyとLateから取ってきてある(実は間違いだったのだが歴史的にね)。
URRは蛋白質はコードしていないが、ゲノムの複製やウイルス遺伝子の発現を制御する遺伝情報がある部分。ざっくりこのような構造をしていた場合『パピローマウイルスだ』と言えるわけね。
じゃ問題
足の裏のイボからこのようなゲノムを持つウイルスが単離された。パピローマウイルスの仲間だろうか?

E5はないけど構造はざっくり似ている。これはHPV1、足底疣贅・ミルメシアからよく単離されるウイルスだ。
じゃあ、これは?牛のイボからこのようなウイルスゲノムが見つかった。パピローマウイルスだろうか?

まあ、控えめに行ってもHPV16とそっくりだ。DNAの配列自体は全くと言っていいほどに異なる(似ている部分もある)がウイルスゲノムがもつ遺伝情報の構成はほとんど同じと言っていい。
それでは、これは?
魚のイボからこのようなウイルスゲノムが単離された。

いやぁ、ずいぶんシンプルになりましたな🐰E6やE7・E5もなくなった。それでも基本的なゲノム構成は同じ。また、これ以上シンプルなパピローマウイルスが見つかっていないことから、ここにある調節領域(URR)とE1/E2(ゲノム複製蛋白)とL1/L1(ウイルス殻蛋白)をコードする遺伝子群がパピローマウイルスの最小構成要素と言うことになるね。
これらが、何かウイルスが見つかって、それがパピローマウイルスであると同定・定義されるための条件ということになる。
じゃ、こんなのが見つかったらどうだろうか。非エンベロープウイルスから環状DNAをウイルスゲノムが単離された。その構造を見てみると…

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/3/38/Gaynor_plospathogens_2007_WUvirusgenome.png
物理化学的な性質はそっくりでも、ウイルスゲノムの構成はこのように全く異なる。これはポリオーマウイルスね🐰
まず、パピローマウイルスとは何か・ウイルスゲノムの構成で定義される・と説明した。
どのくらいの種類のパピローマウイルスが見つかっているの?
このような形で、パピローマウイルスをきっちり定義できるようになった結果、パピローマウイルスは基本的にありとあらゆる脊椎動物から、現在までに600種類以上が発見・同定されることになった。

L1遺伝子の配列を配列を使ってざっくり系統樹を書いてみた。
ヒトをホストとするいわゆるH (human)PVは400種類以上見つかっているが、理由は人類のヒトへの偏愛で研究が進んでいるから。
これだけの動物種(見つかっていないのは研究が進んでいないだけと考えられる)からそれぞれをホストとするPVがある・動物の数だけ異なった種類のPVが存在すると考えていいわけね。
PVは基本的に動物種を超えて感染しない。ホスト特異的なウイルスだ
例外はあるが、基本はこれ。それぞれのPVはそのホスト特異的に感染することができるウイルスであるということ。
🐰さんは実験で、ウサギパピローマウイルスやネズミパピローマウイルスを扱っているが、理論上封じ込め対策は不要(遺伝子組み換えでない限り)だ。ヒトには感染しないし、基本的に環境中に広く存在すると考えていいからだ。
日本人はサカナパピローマウイルスを日常的に口にしている可能性があるが、心配いらない・感染しないし病原性もない。
これだけのPVも遺伝子の変異によって徐々に進化し多様性を増してきた
元にあるPVがあって、変異してちょっと異なったPVができる、それを何回も何回も繰り返すことによってこれだけの種類のPVが進化してきたわけ。
さあ、ここで問題が起こる。
PVは元のウイルスがあって、変異してよく似ているけど少し違うPVとなる。そしてそのホストはもとのPVと同じままだろう。しかし、現在存在するPVはホスト特異的な感染しか起こさない。マウスで変異したマウスPVはヒトには感染しない。ホストスイッチは原則起こらない。
だとしたら、例えばヒトとウサギのPVウイルスが分岐したのはいつのことだろうか?
ヒトとウサギが十分に近かったころ、ヒトとウサギの共通祖先において分岐したと考えらられるってわけ。
同じ始原パピローマウイルスから進化したはずなのに、現在ホスト特異的であるとするのであれば、PVは動物の進化とともに進化してきたと考えられるというわけ🐰
始原パピローマウイルスの出現は進化上重層扁平上皮の出現まで遡れるだろう

動物の進化・赤いラインはPVが見つかっているライン、ひょっとするとアップデートがいるかも。誰か一緒にヤツメウナギからPVを見つけてみないか?
PVのは少なくとも硬骨魚類と軟骨魚類の分岐するところまで遡ることができ、それぞれのホストが進化するのに従ってPVも進化してきた。
歴史上(歴史以前だけど)最初にHPVが感染したのは進化上現生人類が出現した時🐰
そして、その感染源は現生人類が出現することになった元の前人類ということになる。人類が出現する以前からHPVとしてあったのだろうが、ヒトが出現した時にHPVとなった。HPVと定義したのは我々が勝手にやっていることで、たかだか100年程度の話だ。勝手に切り取っているに過ぎん🐰
どのようにHPVは人類の中で受け継がれてきたか
よく知っているようにHPVは性的接触に代表される、繰り返す皮膚・粘膜の接触を介して『主に』感染する。おそらくこれだけでも十分な説明になるだろう。
1人の感染者が2人以上に感染させることができれば途絶えることはない。平均的な性的パートナー数は1に近いよりは、2より上だ。パートナーを通算で複数持つ時、必ず同じ年齢グループで持つということも考えにくい。性的接触だけでも十分説明可能だ。
また、性的接触を『主に』としたが、それ以外の感染ももちろんある。その中でも、頻度的には家庭内・水平・垂直感染が多いと考えていいだろう。ウイルス性疣贅が基本的に子供に多い病気であることを考えれば、ある程度水平感染は必ず起こっている。
もし、性的デビュー前に1%の人がHPV16のキャリアになっているとして、通算で平均5人のパートナーをもてば、軽く20%以上の人が一生で一回はHPV16に曝露されることになるのに十分だ。
性交渉以外の感染経路(効率が悪い)を起点に、性的デビュー後に感染が蔓延する。それが、性器・外陰を標的とするHPVの感染経路と考えればいいだろう。
ま、猿山の猿もそのコロニーの中でPVを維持しているのですよ。亀だって・モグラだって・サカナだって…そんなに難しいことではないでしょう。
このような感染経路に特化したPVの戦略
ウイルスが感染して・2週間で症状が出るような感染を起こし・ウイルスをガンガン撒き散らし、感染を拡大させる。そのよう感染形態がもしPVに必要だとしたら、まあ簡単に絶滅するね🐰
感染細胞は限局し(せいぜいイボがある範囲)、その表面から細々と(それでも100万単位)のウイルスを産生し、次のホストの皮膚・粘膜にくっつく。たまたま傷があったら感染できる。これを2週間で行うとしたら、PVには無理だ。
その代わり、PVは持続感染という戦略を採用した。一旦感染したHPVは生涯排除されることなく感染を維持し続け、免疫に制御されることもあるだろうが、感染性ウイルスの産生を細々と続けている。HPVに取っては、一度感染すれば次のホストに出会うのは、何年先でも構わない。
なに感染機会は勝手にホストの方から提供してくれる。そういう意味では、性的接触とは感染細胞を次のホストに直接何度も擦り付ける行為とも言え(かつ多くのヒトの場合何度もするだろう)、性器・外陰を標的として進化したHPVは実にうまい戦略を採用したというしかないよね🐰
蛇足
400種類以上あるHPVはそれぞれ世界中のヒトから発見される。主に接触で感染するとしたら、人類の出現とともにあったのでなければなかなか合理的な説明は難しいだろう。
HPV1はアフリカの人の足の裏からも・日本人の足の裏かも・イヌイットの足の裏からも発見される。400種類以上のHPV全てに同じことが言える。人類が出現して以降進化したとは考えられない。
例えば、今あなたの中で、HPV480が進化したとして、主に接触で感染するとして全人類に行き渡るには何世代必要か?PVは古いウイルスであるってこと
ホストに特化して長い間進化したことが、ホスト特異性を逆に説明する。
ヒトとサル・ウサギの細胞は同じ細胞でも微妙に性質が違う(だから別の種だ)、その違いにPVは適応し過ぎているのだ。それぞれのホストに長く特化したおかげて、そのPVの持つシステムは他のホストにおいて応用が効かない。
ホスト特異性がPVが非常に古いウイルスであることを逆に説明している。
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