『HPVは根絶できるのか―天然痘のように』
天然痘はどのような病気で、どのように根絶されたのか
感染症・病原体の『根絶』を考えるとき、必ず参照されるのが天然痘だ。天然痘は、WHOが根絶を宣言した唯一のヒトウイルス感染症である。
感染症対策における根絶とは…
病原体の『自然界における伝播』が世界規模で停止し、その状態を維持するための継続的介入を原則として必要としない状態
天然痘の根絶とは、天然痘ウイルスがヒト集団内で感染連鎖を維持できなくなり、自然感染としての天然痘が地球上から消失したことを意味するね🐰
世界全体で自然感染の連鎖が断たれ、通常のワクチン接種や流行対策を続けなくても再流行しない段階である。実験室に保管されたウイルスまで物理的に消失したという意味ではなく、あくまで自然感染としての消失を意味する(ウイルスゲノム配列わかっておりますし合成自体可能ですし🐰)
天然痘の根絶が可能であった背景には、天然痘ウイルスおよび天然痘という感染症の性質が深く関係している。
根絶が可能かどうかにとって必須な条件は以下の三点
天然痘ウイルスは、実質的にヒトを唯一の自然宿主とするウイルスであった。動物集団の中に病原体が維持され、そこから再びヒトに感染するような動物リザーバーが存在しなかった。したがって、ヒト集団内での感染連鎖を断ち切ることで、そのまま病原体の自然界における維持を断つことができる。
天然痘には有効なワクチンが存在した。感染症の根絶には、病原体の伝播を十分に低下させる介入手段が必要である。天然痘では、ワクチン接種により感受性者を減少させ、感染連鎖を断つことが可能であった。
天然痘感染またはワクチン接種によって、比較的強固な防御免疫が成立した。免疫が短期間で失われたり、再感染が頻繁に感染維持へ寄与したりする場合、集団内の感受性者を十分に減らし続けることは困難になる。天然痘では、感染後あるいはワクチン接種後に成立する免疫が感染連鎖の遮断に十分な役割を果たし得たことが、根絶の基盤となった。
さらに、根絶が達成される上で、その難易度に影響を与えた条件もあって
・天然痘が臨床的に認識しやすい感染症であったこと
感染後に、発熱などの全身症状に続いて特徴的な発疹が出現し、多くの場合、患者を臨床的に同定することが可能。このため、患者の発見、隔離、接触者の追跡、周辺地域への集中的なワクチン接種が有効に機能する。これは根絶の理論的な必須条件ではなく、監視と封じ込めの精度を高め、根絶の難易度を大きく下げた条件である。
・天然痘には慢性感染や長期潜伏感染の形で病原体がヒト集団内に隠れて残る仕組みがなかったこと
感染者は原則として、感染後一定の経過で発症、経過を経て回復または死亡に至る。無症候性の保有者が長期間にわたって感染源となり続ける病原体と比べれば、感染連鎖を疫学的に把握しやすい。これも、根絶の成立そのものに対する必須条件ではなく、感染源を見逃しにくくし、制圧戦略を現実的にした性質である。
まとめると、
天然痘の根絶は①ヒト以外の自然宿主を持たず②有効なワクチンが存在し③ワクチンや感染によって成立する獲得免疫が、感染連鎖を断つに足りた、ために達成が可能なものであった。そのうえで、症状が認識しやすく、慢性感染や長期潜伏感染による隠れた感染維持がなかったことが、監視、隔離、接触者対応を実効性のあるものにし、根絶の難易度を大きく下げた。
(根絶できたからこそ言えるのだけど)『根絶可能な感染症の条件』を天然痘が比較的よく満たしていたと言える。当然、天然痘の根絶という成功例を他の感染症にそのまま当てはめることはできない。
では、HPVはこの条件をどの程度満たしているのだろうか。天然痘のように、ヒト集団内の感染連鎖を断つことで、ウイルスそのものを自然感染として地球上から消すことができるのか。
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