『子宮頸がん予防の過去と現在と未来:HPVワクチンを接種すれば20代の検診は受けなくてもいいですか?』前編
イングランドより、定期接種でHPVワクチンを接種した集団において子宮頸がんの罹患が激減したのに加え、子宮頸がんによる死者もほとんどいなくなったことが報告された。HPVワクチンは20代の子宮頸がんに対してほぼ完璧な(予想以上の)有効性を示している。
今回は、その報告の筆頭著者のPeter Sasieni(数学者で疫学の大家)の予防医学に関する講演を聞いてのレターね🐰根拠となるデータはイギリスの検診疫学によるとしてもらってよい。
子宮頸がんに限らず、予防医学は過去半世紀にわたって大きな成功を収めてきた🐰(失敗もした)
ワクチン・検診・感染症対策・生活習慣病対策などを通じて、多くの疾患は発症する前に防がれ、あるいは重症化する前に介入されるようになった。予防医学は、病気になった人を治療する医療とは異なり「病気にならなかった人」を増やすことで社会全体の健康を支えてきた。
予防医学は現在、その実装において過去最大級の危機に晒されている。
予防の成果は、「起こらなかった病気」としてしか現れない。成功すればするほど、その必要性は見えにくくなる。一方で、予防介入による不利益・過剰診断・過剰治療・医療資源の配分・そして個人の選択と社会的利益の緊張関係は、以前よりも強く意識されるようになっている。
この危機は、単に人々が科学を信じなくなったという問題ではない(🐰単に医療全体・医学全体に対する不信と簡単に言えるものではなく、予防医学の方にもその問題の原因がある)
予防医学が信頼されるためには、信頼を求める(医療・医学を信じてくれと言う)だけでは不十分だ。予防医学の側が、信頼に値する制度、説明、判断基準を示さなければならない。すなわち、trustをtrustworthinessに結び直す必要がある(linking trust to trustworthiness:今日のキーワード🐰)。利益だけを強調するのではなく、不利益や不確実性も含めて透明性をもって説明し、その上でなぜその介入が必要なのかを示すことが求められている。
子宮頸がん予防は、この構図をよく示す領域の一つである。かつて子宮頸がん予防の中心は、細胞診によって前がん病変を発見し、治療するという二次予防であった。この方法は多くの国で子宮頸がんの罹患と死亡を減少させ、予防医学の大きな成功例となった。
その後、子宮頸がんの主要な原因が高リスク型ヒトパピローマウイルス、すなわちHPVの持続感染であることが明らかになり、HPVワクチンによって原因感染そのものを防ぐ一次予防が可能になった。
この変化は子宮頸がん予防に大きな希望をもたらした。同時に、新しい問いも生んでいる。HPVワクチンを接種した世代に対して、これまでと同じ年齢から、同じ方法で、同じ間隔の検診を続けるべきなのだろうか。
より具体的には『HPVワクチンを接種すれば、20代の子宮頸がん検診は受けなくてもよいのだろうか』🐰
単純に「ワクチンを打っても検診は必要です」と答えるだけでは、もはや十分ではない段階にきている。もちろん、現時点でHPVワクチン接種者が検診を完全に不要とできるわけではないと同時に、ワクチンによってリスクが大きく低下した集団に対して、従来と同じ検診を続けることの利益と不利益は改めて評価されるべきである。ワクチン時代の子宮頸がん予防には、信頼を要求する予防医学ではなく、信頼に値する予防医学として、検診のあり方について示す必要があるというわけ🐰
子宮頸がん予防をネタに、予防医学(linking trust to trustworthiness)について考察するわ🐰
予防医学とは何か
医療・医学には、いくつかの視点がある🐰
公衆衛生
公衆衛生は、個々の患者ではなく、集団全体の健康を扱う。そこには、感染症対策・ワクチン政策・検診システムの設計・受診勧奨・医療資源の配分・健康教育・生活環境の整備などが含まれる。公衆衛生とは、社会全体の疾病負荷を減らすために、制度、政策、環境を設計する活動。
臨床医学
臨床医学は、すでに症状がある人、病気と診断された人、あるいは病気が疑われる人を対象にする。目の前にいる患者に対して、診断し・治療し・苦痛を和らげ・予後を改善する。ここでは、医療者と患者の関係は具体的であり、介入の必要性も比較的見えやすい。
予防医学
予防医学この二つのあいだに位置していて、公衆衛生の制度や政策に支えられながら、その実装の多くは、病気になる前の個々の人への介入として行われる。ワクチンを接種する。検診を受ける。生活習慣を変える。リスクに応じて追加検査を行う。これらはいずれも、まだ病気として現れていない段階で、個人に対して先回りして行われる介入である。
つまり予防医学とは、ある異常やリスクが「病気」として人の生活や健康に影響を及ぼす前に、個々の人に対して先回りして介入し、発症や重症化を防ぐ取り組みのこと
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- 公衆衛生・予防医学の関わり:子宮頸がん検診システム
- スクリーニングのもつ限界
- 20代の子宮頸がん検診
- 20代前半の検診はやるべきか、やらないべきか
- 検診の害:スクリーニングは無害ではない
- まとめ
- 次回予告
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