4価ワクチンと9価ワクチン②男性への適応が承認されましたが…

現在男性(男子)への定期接種として採用されていない状況でどんな意味があるの?
アマミノクロウサギ 2025.09.01
誰でも

今まで9価ワクチンは①子宮頸部上皮内がん・子宮頸がん②膣・外陰の上皮内がん③コンジローマに対する予防効果があるとして承認されていた。(コンジローマは男性にもできるのだが)子宮頸がんも膣がんも男性には発症しないから『がん予防目的』に男性へ接種することは用法上なく、女性に対するワクチンとして承認されていた。

今回、9価ワクチンが『肛門がん』に対する予防効果を追加することで、用法上男性へも接種できるようになった。男性にも肛門があり肛門がんが発症するからだ(冗長だがロジックとしてはそうだ)🐰

男性にとって4価と9価の有効性上の違いは大きくない

これまでも肛門がんの予防効果のある4価ワクチンが男性に対して適応があったから、特別新しいことではない。しかも『4価と9価で肛門がん(中咽頭がんも)の予防効果に大きな違いはない』🐰

それは子宮頸部以外のHPV関連がんはその圧倒的大部分が16型(と18型)の感染が原因となるからで、他のハイリスクHPVの寄与は大きくないから。ざっくり言って

①4価でも9割程度の中咽頭がんが予防できるだろう

②4価でも9割程度の肛門がんが予防できるだろう

③4価でも9割以上のコンジローマが予防できるだろう

9価で追加されるのはさらに5%〜といったところだ。

男性にHPV関連がんの検診はないので、検診関連の負担はなくワクチンの利益もない。

HPVワクチンはなるべく若い時に接種した方が有効だ(集団での結果をみたら明らかだ)🐰

日本では高校一年生まで定期接種の対象になっているが、世界的には12歳がその標準的な接種対象になっているし、遅くても全員が15歳の誕生日に接種することを目標としている。それ以降は(有効性は落ちるが)キャッチアップ接種としての対応となる。

先日紹介したダイアン・ハーパー博士が著者のレビューにおいても『より若い時の接種が有効性が高い』とあり、米国で26歳以下の全員に条件なしで推奨していると言っても(A)26歳よりも20歳で接種した方が(B)20歳で接種するより16歳で接種する方が(C)16歳で接種するより12歳で接種する方が、集団全体で見た場合効果が高くなる。そのためHPVワクチン接種の基本は

『どの種類のHPVワクチンでもいいからなるべく早く一回目を(なるべく多くの人が)接種する』

につきる🐰具体的に言えば

来年・数年待って9価を接種するくらいなら今4価を接種することが推奨される

待っていいといえるのは①定期接種の対象未満である場合、くらいで②標準の接種年齢とされる中1まで③定期接種を推奨と解釈するのであれば高校一年生まで、と言えないことはないが、公衆衛生的・医学的には③は勧めない。

***

中学1年生で接種した場合と比較して、集団で見た場合確実に効果が落ちる。

うちの子はそんなに早く性交渉をしない。後一年待っても大丈夫。

ワクチン忌避で『うちの子にはワクチンは早すぎる』と言っている人たちと同じことだ。HPVワクチンが性交渉をするから接種するのではなく、していないから接種するのを忘れた?

個人で考える分には好きにしてもらったらいいが、保険当局・医療関係者・行政は原則、

『どの種類のHPVワクチンでもいいからなるべく早く一回目を(なるべく多くの人が)接種する』

HPVワクチンプログラムの趣旨としてブレないことが重要だ。

9価ワクチンの男性への適応が広がったことがどう重要か?

簡単な話で

⓪9価が『より効果の高い』ワクチンであることはその通り。その程度がちょっぴりであっても🐰

①ジェンダーニュートラルワクチンとして『男女同じワクチン』を接種するのが当然だ(費用対効果の議論は不要)

に尽きるだろう🐰その上で日本独特の事情としては

②これまで、9価ワクチンの男性への承認が遅れたことや、何より定期接種に未だ採用されていないことに対する象徴的な意味

これが大きい。HPV感染症・HPV関連がんが男性にも関係があることや、それを予防するワクチンが存在すること。このこと自体が全くもって十分に知られていない。9価の男性への拡大のニュースは啓発の契機となるだろう。取り上げる価値が十分ある。

一方で、その取り扱いには十分注意が必要だ🐰

***

男性へ9価を接種することが集団免疫として意味があるか?に関しても『定期接種に採用され男性の接種率が上がり』かつ『女性の接種率が中途半端』である場合のみ効いてくるだろう。

4価でも9価でもいいので12歳(遅くても15歳)までの接種率を上げるにはどうすればいいか?の視点が必要

簡単な話で、定期接種に採用することにつきる🐰

今回の9価の承認獲得が定期接種が男性に拡大することに促進的に働くははわからない。費用対効果にこだわる(現在の議論で男性に拡大していない理由)のであれば9価の採用は不利になる。費用対効果は悪化するから🐰

ジェンダーニュートラルワクチンとして採用する『政治的な判断』のきっかけになるのであれば結果オーライだけど、🐰さんの守備範囲を超えます。

現在独自に男性への公的補助を行っている自治体がありますが、中央(国)のバックアップがありません

予算等も基礎自治体が負担している。保険予算は無限にあるわけではないから、全てのワクチン接種や医療行為が保険適応・公費補助になるべきだとはなりません。その中で『男子への接種も重要だと優先順位をつけれた自治体が”例外的に・独自で”』実施しているのが現在の男子への公費補助。

何より、国の保険当局は『男性へのHPVワクチンの接種は費用対効果上正当化されない』としています。東京都の多くの自治体で公費補助できているのは比較的予算に余裕のある都が半分コストを負担しているからです。

男性へのワクチン接種に9価を採用するのが当然(将来的にはそうなりますが)とした場合にそのコストも2倍になります。基礎自治体の限られた予算(国の予算措置がない)状況で男性への9価の接種が正当化できるかは分かりません。少なくとも、できて当然とは言えません。

その分の予算は他に優先して使うべきところがあるかもしれません(あるでしょう)。国の保険当局は4価ですら優先順位は低い・他にお金を回した方がマシとしているのですよ🐰

『定期接種に採用されること・その時期が早くなること』につながるものでないと意味がありません。現状、HPV感染に対して、男性(男子)の健康格差が自治体間で最大化してしまっています。その解消につながるものでなければ意味がありません。

4価でも9価でもいいので12歳(遅くても15歳)までの接種率が下がることになったら意味がない

定期接種対象になる場合でも、数年後9価を接種するくらいなら今4価を接種した方がいい🐰

保健当局・医療関係者・行政当局のこの原則にブレがあったらいけません🐰現時点で9価が定期接種になるのはいつかわからない(今年の9月に決めてほしいけど)。

来年度になるだろうと待って、再来年になって、数年先になってとかしていたら、そのうちに感染して4価も9価も意味のなくなる人が確実にでます🐰

中1を標準の接種対象にしているのでしょう?

定期接種(高校1年生)以上の男性は公費負担で接種できる可能性は低い。接種するならなる早なのに

実際、昨年公費補助の対象だった高校1年生の男性も今年は対象じゃなくなっている。

男性へ定期接種拡大寺にキャッチアップ接種が行われるか?→やる意味はあるだろうが『現在費用対効果の小ささが議論の中心であること』を考えるととても正当化されるとは考えにくい🐰

適切な接種年齢を超えていることもあり、より『なるべく早く接種すること』が重要。4価でも9価でも対して違わない上で自費で接種することになる。

さくっと4価接種した方がいいよ🐰

費用が2倍になるからと躊躇したり・接種しなかったり・タイミングが遅れるのであれば全く意味がない。

このような時に『9価が男性にも接種できるようになりました→(間違っているが、4価より)素晴らしい』と言いっぱなしにするのは不利益すら生む🐰

すでに接種した人に対する適切な情報提供を伴わなくていいの?

これまで4価を男性に対して積極的におすすめしてきた。特に東京都を中心に(接種率はさておき)定期接種世代に4価を公費補助してきた。9価の国内臨床試験が終了して男性への適応拡大が審議されていたのもわかっていたはずだ。

突然、9価が承認されました。9価の方が(ちょっぴり)いいワクチンです。先行する公費補助も9価になるかもしれません・ならないかもしれません(できるところもできないとこもあるでしょう)。定期接種価も(そのうち)なるでしょう。追加接種はした方がいいのですか?ちょっと待てば不要だったのに。公費で4価を接種したのは早まったのですか?

このような当然出てくる疑問に答えた丁寧な情報提供が必要でしょう。

その時接種できるワクチンを最適のタイミングで接種したのならそれが最善の選択です。

***

日本は3年前に女性の勧奨再開・キャッチアップ接種でも同じ間違いをした。

9価が採用されるのは流れとしては当然いいこと。しかし、そのタイミングも広報のしかたも最悪だった🐰

ワクチンの供給ですら『接種率が上がらないこと』が前提だったのは、キャッチアップ接種終了間際にちょっと駆け込み需要があっただけで供給不足を起こして、期間を延長することになったのは記憶に新しいでしょう。

女性のキャッチアップ接種も同様に『どれでもいいのでなるべく早く』だったのに『正しく反応して早く接種した人には損をしたと感じ』・『一年目後半の接種控え(現場の医療機関は混乱したでしょう)』『結局3年目まで接種は進まず』・『ワクチンは確保されておらず接種のタイミングはさらに逃され』・『最終的な接種率も中途半端なまま制度は終了』しました。

4ヶ月の短縮接種も可能とか、3月までに1回目を接種すれば今年度にかけて接種できるなど、現場の混乱に拍車をかけましたし、そのワクチン行政も行き当たりばったりです。

ワクチンを接種する医療機関・受ける側にしてもワクチンプログラム自体に対する信頼を失うことになりかねません(実際なったと考えます🐰)

***

男性の9価採用においても、同じ考え方ができるのは言うまでもなく、同じことを繰り返さないでください🐰

どのワクチンでもいいのでなるべく早いタイミングで接種する。男性定期接種になるべく早く採用される。簡単な話です。

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