HPVは性病ではない
性病と性感染症の違い
感染症としての本体は同じものであり、主に性的な接触によって感染する疾患を「性行為感染症」または「性感染症」とします。
『性病』という語は日常会話や文学的文脈でも用いられますし、1999年に廃止された『性病予防法』にもありました。また現在でも『性病クリニック』『性病検査』といった形で広く使われています。一方、医学的・公的な場面においては、現在は『性感染症』という表現が正式に用いられていて「性病」という語は基本的に使用しません。
理由はシンプルで、「性病」という語にはスティグマや偏見が含意されているから🐰
「性病」という言葉の中には、単に『性行為を介して伝播する感染症」という意味に加え、『性道徳的に不適切な行為をしたために感染・発症した』という道徳的なニュアンスが含まれます。
一方で、性感染症に罹ることは『感染者との性的接触によって伝播した感染症になった』という医学的事実を指すにすぎません。加えて、医学や公的な文脈では、道徳や価値観の問題は取り扱いません。そのため、スティグマを伴う『性病』という用語は不適切とされ、排除されるようになり、現在では『性感染症』が正式な表現として用いられています。
もちろん、『性病』という言葉をスティグマや偏見、道徳的な価値観を込めずに使う人がいてもよいでしょうし、逆にあえてそうした意味を込めて『性病』と表現することも可能ね🐰
性感染症は(仮に社会や文化の一部で『性道徳的に不適切』とラベルづけされるような行為があったとしても)そうした価値判断とは無関係に感染・発症し得るもの。そもそも『性道徳的に不適切』といった定義自体、普遍的なものではなくて時代や社会・個人の恣意的な価値観に依存しています。再度、科学・価値観を取り扱わない🐰
にもかかわらず、『性病』という語に伴うスティグマや偏見は、感染者に不必要な負担を与え、受診や治療の妨げとなっています。そのため、このような道徳的含意を帯びた『性病』という表現は不適切であり、医学的・公的な文脈では使われません。
よって、『性病』という疾患概念は医学的には存在しません。したがって、HPVやHPV感染症は『性病』ではありません。
HPVに感染していること、異形成になること、そして子宮頸がんになることに偏見が伴い、患者に大きな負担を与えていることは議論の余地もないよね🐰
今後、HPV検査が検診として広く導入され、事実上すべての女性が検査を受けることが推奨されるようになれば、一定の割合で陽性となる人が必ず出るよ(20代であれば20〜30%、30代以降でも10%程度)。この事実が偏見とともに扱われれば、その心理的・社会的負担は非常に大きなものとなるのは容易に理解できるよね。
また、最近、女性にとっての主な感染源であり子宮頸がんの原因となる男性への嫌悪、あるいは逆に男性の中咽頭がんの原因となり得る女性への嫌悪がSNS上でも見られたのは記憶に新しいでしょう。さらに、中咽頭がんや肛門がんを罹患した人と特定の性行動を結びつけるような偏見もしばしば見受けられる。
これらすべての偏見は不要であり、害となるものだ。
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- 性感染・性感染症として最大のHPV・HPV感染症
- HPVが性病なら『大人のほとんど全員が性病にかかっている』ことになる
- HPVの感染自体に対する治療法はない・自然治癒しても感染は持続している
- HPVが性病なら『大人のほとんど全員が治療法のない・不治の性病にかかっている』ことになる
- 感染することと感染症にかかることは異なる
- HPV検査が検診に導入されたことで、女性にとってのみ『HPVに感染すること自体が感染症とみなされる』状況が生まれた🐰
- HPVが性病だとすれば『女性だけ』が検診を受け、その結果一定数が「性病にかかっている」とされることになる。
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