ワクチン接種後に有害事象が起こったとして、それがワクチンが原因であるか・因果関係があるかを判断するにはどうしたらいいのか①

ワクチンの安全性評価はどのように行われているのか?①
アマミノクロウサギ(Amamino_Kurousagi) 2024.03.15
読者限定

ワクチンが安全であることは大前提。その安全性がどのように評価され担保されているのかを解説します。

ワクチンや医薬品の安全性監視における大原則で『予防接種・医薬品の副作用・有害反応の検出・評価・理解・対応・予防のための科学と実践に関係する全ての話』です🐰

まず強調したいのは

”世界保健機関が国際的な薬物監視プログラムを開始した”のは1960年代初頭に起きたサリドマイド大惨事を受けてうけてのこと

であることです。

サリドマイド事件は薬害・薬剤の副反応問題の大元になった事件であった。

当時、サリドマイドは、安全で妊婦でも処方箋なしでも使えるとされていた薬剤でした。そのため、睡眠薬やつわりに対する薬剤として調剤・市販され、その結果新生児に奇形を引き起こしたことが明らかになり世界に衝撃を与えました

医薬品の安全性監視とそのシステムとは『このようなことが二度と起こらないように、人間に提供される薬物に対して医薬品安全性監視システムが必要だ』との考えに基づいています。多くの薬剤が『妊婦・胎児に対する安全性が確立されていない』とされるのを見れば、サリドマイド惨事が医薬品の安全性監視の根底にあるというのはわかると思います。

そのため、薬害としての『サリドマイド』を学ぶことは医療関係者にとって必須ですし(一般的なリテラシーとしても必須でしょう)そのテーマは『このようなことが二度と起こらないようにどうしたらいいか・どの様なシステムが必要なのか』を考え実践することです。

副作用・有害反応の『検出・評価』をどの様にするかがスタートライン

安全性の評価には、因果関係のある副作用・副反応を『ある』ということと同時に、『ない』ということを科学的に評価できることも重要です。有効で利益のあるワクチンや薬が、根拠の不確かな安全性に対する懸念から使用されなくなると、実際上の『害』が発生します。安全である薬剤を安全であると科学的にいうことも、因果関係のある副作用をみつけ『どの程度危険であるか』と評価することと同じくらい重要です。

ワクチン接種後に有害事象が発生するのは当然だ🐰

ワクチン接種後の有害事象とは、因果関係に関係なくワクチン接種後に起こった全ての、障害・体調不要・病態・負のイベントになります。

ワクチンに関して言えば、ワクチン接種後には、

ワクチンが予防するとされる疾患・感染症が減少すること以外の疾患・体調不良・病態は全て自然発症率に従って発生する。

これが基本です。ワクチンはエリクサーでもネクターでも霊酒でもありませんから当然です。

時間的にワクチン接種後の全ての有害事象・体調不良をワクチンとの因果関係があると推定してしまうと、全てのワクチンは安全でなくなり使用できないことになるか、ワクチンと関係なく実質全ての接種後の体調不良は補償の対象になるということになります(補償に関しては、社会合意として受け入れられるならそれでも構いません)。

目の前の症状を訴えている人(有害事象の存在)だけをみてもわからない

これが、原則。例を挙げてみるよ🐰

1型糖尿病ね。こちらからの数字を採用しよう。

HPVワクチン接種の定期接種対象である12-16歳の1型糖尿病の発症数は約240人で平均的に毎年一学年当たり50人の発症者がいると仮定しましょう。男女含めてHPVワクチンを接種するとして、その1学年を観察すれば50人1型糖尿病が発症します。自然発症率に基づく期待値です。一学年100万人いるとして(ジェンダーニュートラルワクチン)ワクチン接種者10万人観察すれば5人が1型糖尿病が発症する計算になります(説明のためにざっくりとした数値を採用していますぞ)。ざっくり図にするとこれ

2ヶ月4ヶ月あけてワクチンを3回接種したよ🐰

2ヶ月4ヶ月あけてワクチンを3回接種したよ🐰

5回の発症イベントをどのように配置しても構わないのですが、この一年の間にワクチン接種と前後して様々なタイミングで1型糖尿病が発症するわけです。この場合ワクチン接種後1ヶ月以内の発症を副作用と解釈すれば1人が、半年以内と解釈すれば4人が『ワクチン接種後の有害事象・副作用疑い』といとなることがわかるでしょう。しかしそうではありませんよね(この頻度はワクチン接種と関係なくおこる自然発症をプロットしたものです)。補足をすると

  • ワクチン接種後の観察期間を伸ばすほどより多くの病気(この場合は1型糖尿病)が発生します。来年はさらに5人発症します。HPVワクチン接種後の体調不良を因果関係のある副作用と主張する場合、接種から発症の期間が非常に長いことがあるヒトがいることが思い出されます。期間が開くほど因果関係上は不利です。その分自然発症数も増えるからで、よりワクチンが原因でない可能性が上がります。

  • ①の例のように、HPVワクチン接種後の体調不良を因果関係のある副作用と主張する場合にワクチン接種前に同様の病態があったもの(それの増悪)などが指摘されるものがあります。時間的因果関係『ワクチン接種→発症』の原則が崩れるものです。

  • あらゆる疾患にこの考え方は広げられます。糖尿病をどの疾患に置き換えても同様です。思春期に発症しやすい、罹患しやすい疾患・病態はワクチン接種後に発症したというだけで、その罹患者にとっては『ワクチン接種→発症』の時間関係から、因果関係のある副作用と解釈できる疑いが発生することは仕方がないでしょう。でも『この頻度はワクチン接種と関係なくおこる自然発症をプロットしたものです』🐰

体位性頻脈症候群(POTS)や関連の自律神経障害(Dysautonomia)や自己免疫性疾患など、ワクチン接種対象の比較的若い女性(思春期の女性)に多い疾患群は、ワクチン接種を受けるヒトを観察していると山ほど発症することがわかるでしょう。

もう一例。

多発性硬化症(MS):一種の自己免疫疾患で『視力障害・複視・小脳失調・四肢の麻痺・感覚障害、膀胱直腸障害・歩行障害・有痛性強直性痙攣など』を症状とするものです。特にフランスでHPVワクチン接種後の有害事象として訴えが相次ぎ、補償制度として保障されたものもあります。思春期に一定数発症する疾患です。

仮に多発性硬化症の『自然発症率が1万人に1人』だったとします。ワクチンの対象人口が一学年100万人いたとして、ワクチン接種率が80%だったとします。この集団で発症する(100人の)多発性硬化症を診察した場合、その8割80人がワクチン接種者で発症します。ワクチン非接種者では20人になりますね。

受診者に偏りがない場合でも数だけ見ればワクチン接種者において4倍多くの多発性硬化症の患者が発生します

<b>ワクチン接種と関係なくおこる自然発症にしたがって発症する病気でも、ワクチン接種率によっては罹患者は接種者にかたよる</b>

ワクチン接種と関係なくおこる自然発症にしたがって発症する病気でも、ワクチン接種率によっては罹患者は接種者にかたよる

特に、特定のクリニックなどでワクチン接種後の体調不良を診察する傾向がある場合その数は大きくなるでしょう

実際にHPVワクチンにおいてデンマークからのPOTS症例が報告されました。ほとんどの症を一つのクリニックが(有害事象・副反応疑いとして)報告した事例になります。関連した動画見たことありません?

目の前に症状を訴えている人(有害事象の存在)だけをみてもわからない(大事なので繰り返し)

これが基本であるのがわかるでしょう。集団全体の罹患率を見て、ワクチン接種者・非接種者の罹患率に違いがあることか推定される自然発症率と比較して高いか低いかを見ることでしかわかりません。

これが、ワクチン接種後の補償システムの因果関係の評価において誤解されていることの一つで『個別の例に置いて因果関係が確定されることはそもそもありえず』『疫学的な評価に置いて因果関係を定量的に推定しかできない』ことになります。

そしてその疫学的な評価する為のデータが不足している場合は『評価不能』〜『因果関係が否定できない』ということになるわけです。評価の根拠は個別の例における詳細な情報ではありません

それではHPVワクチンの例に置いて、因果関係の存在する副反応として疑われた自己免疫疾患についてどのように評価されたか?

HPVワクチン接種後に発症する自己免疫疾患はHPVワクチンが原因ではないと言える

特に、ワクチンの接種対象となった集団で罹患率の高い自己免疫疾患(特にフランスにおける多発性硬化症やスペインにおけるSLE (全身性全身性エリテマトーデス))はその重要性から特別に監視され・評価されました。

ワクチン接種と時間的な関連をもつ自己免疫疾患発症に関するレッスンはこの論文がためになる。

ワクチン接種と時間的な関連をもつ自己免疫疾患発症に関するレッスンはこの論文がためになる。

ワクチン接種の対象世代でどのくらい自己免疫疾患が発症するのか、その評価の難しさよ

ワクチン接種の対象世代でどのくらい自己免疫疾患が発症するのか、その評価の難しさよ

ワクチン導入以前の自己免疫疾患に関する詳細な疫学を持つことがワクチン接種後有害事象の評価に必要がデータです。

ワクチン導入以前の自己免疫疾患に関する詳細な疫学を持つことがワクチン接種後有害事象の評価に必要がデータです。

フィンランド・スウェーデンにおいて10〜20歳の100万人の女性(そのうち30万人がHPVワクチンを接種した)を対象にして行われた(ワクチン・病歴レジストリを用いた)調査でも、ワクチン接種後に自己免疫疾患・神経性疾患・血栓性疾患の増加は確認されず、HPVワクチンとワクチン接種後のその自己免疫疾患・神経性疾患・血栓性疾患に関する有害事象に関して因果関係があることは示唆されませんでした。
アメリカにおいて20万人の少なくとも一回はHPVワクチンを接種した集団における観察研究においても、調査した16の自己免疫性疾患に関して、ワクチン非接種群と比較して増加が見られなかった。たとえば、ワクチン接種者の非接種者に対する多発性硬化症の発症率比は1.37(95%信頼区間0.74-3.20)であり有意な増加は確認されなかった。
約30000人が参加した、11の臨床試験をまとめて解析したところ、16142人のHPVワクチンを接種した集団において、アルミニウムアジュバントを含むワクチンを接種したコントロールに対して、自己免疫性疾患の増加は見られなかった。
一方、200万人12〜16歳(ワクチンの接種を受けた)女性の医療情報の調査によると、自己免疫疾患による入院件数はワクチン接種群で10万人あたり年2.1人であったのに対して、ワクチン非接種群では2.09人でした。

自己免疫疾患に対する副反応としての懸念が提起された後比較的短期の間に言えたことがこれらになります。もちろんこの後も評価・監視は続くのですが『懸念される有害事象に関しては”これこれこういう理由で(以上にしめした)”ワクチン接種と因果関係はなさそうだ(ありそうだ)』となるべく早い段階で評価をする必要があります。

そのままワクチン接種の推奨・実施を継続するのか、中止を含めて詳細な評価が必要なのかを判断する必要があるわけです。中止するのは簡単ですよ。でもハズレだった場合有効で利益のあるワクチンや薬が、根拠の不確かな安全性に対する懸念から、使用されなくなると実際上の『害』が発生します。

ワクチンの安全性に関して評価する為の質の高い疫学データが必要だ🐰

ワクチンの安全性を評価するためには、①ある疾患・病態をワクチンの副作用として疑う②その疾患の自然発症率とワクチン接種後の発症率を比較する必要があります。

①ある疾患・病態をワクチンの副作用として疑うのは、接種した人からの訴えが基本になります。これをシステムとして行うと『ワクチン接種後有害事象報告制度』になります。ワクチン接種後に何か有害事象があったとして、ワクチンの副反応ではないかと疑った場合は誰でも報告できるシステムです。

因果関係の評価はできませんが、ワクチンの副作用として評価すべき疾患・病態を検出できるシステムになります。メディアなどの報道もある程度この段階では機能します(ワクチンの副作用として評価すべき疾患・病態であるかもしれないが、因果関係があるかに関する情報を全く含まないことが正しく報道されることは稀かつ、評価後の報道が同じ熱意でされることはありませんが)。

その上で②の『その疾患の自然発症率とワクチン接種後の発症率を比較する必要』があります。これに関しては(あ)臨床試験などワクチン接種・非接種群を直接評価したもの(い)医療登録システムを用いて、ワクチン接種・非接種群の特定の疾患の診断数・入院数を比較したり(う)ワクチン導入以前の罹患率と比較して、ワクチン接種後に診断数・入院数が増加しているか(接種率が高い場合特に重要ですね。ワクチン非接種者がいなくなる同世代内では評価できなくなります)などで評価するわけです。

ワクチンを導入する以前に構築が必要なシステムが存在するのがわかりません?

  • ワクチン導入以前の罹患率・自然発症率に関する疫学データを持っていますか?

  • ワクチン接種集団と非接種集団を比較して、特定の疾患の罹患率を評価するシステムを持っていますか?

『目の前に症状を訴えている人(有害事象の存在)だけをみてもわからない』ことは『評価する為の質の高い疫学情報を持たない場合、定量的に評価はできない』ことを意味します。

実際これが起こったのが日本です。2013年前後にマスコミ等で増幅されたHPVワクチン接種後の有害事象の副反応としての懸念に対して、疫学的に(暫定であっても)評価するデータも方法も持たなかったことです。そして、現在も十分に持っていると言えません。

HPVワクチンの安全性に関して確認されたために勧奨が再開されたとされますが、そのHPVワクチンの安全性に関する質の高い疫学データは『日本に存在しません』。

①ある疾患・病態をワクチンの副作用として疑い

②その疾患の自然発症率とワクチン接種後の発症率を比較した

諸外国の疫学データがその根拠になります。『名古屋スタディ』と言われることがありますが、その元データの持つ性質上『ワクチンの安全性に関して評価する為の質の高い疫学データ』でありません。HPVワクチンの安全性に関する評価の議論において、他国の保健当局が意味があるものとして(ワクチンの安全性をサポートするにせよ・疑うにせよ)参考にされるようなものでありません。

勧奨が再開されたとしてもその根拠は日本国内のデータが貢献した部分は極々わずかであると言えます。

ワクチンの安全性に関して評価する為の質の高い疫学データを常に収集するシステムが必要です。でないと同じようなことが何度でも起きますよ🐰

以下に特に意味のある情報はありません。

アマクロ疣研では、HPV感染症に関するあらゆることに関して『現在の科学的一般(最先端)でどの様に考えられているか』を提供することです。レターでは、最終的にそれらを項目を全てアーカイブ化して、参照できる様な形として提供することを目標とします。

このような啓発活動に持続可能性を持たせる・インセンティブと専門性の発揮としての動機をもたせるためにサポートできるようにしました。励みになるのと、サポートしてやろうという人がいたらよろしくお願いします(既にサポートして頂いたかたありがとうございます)。登録のみでも励みになります🐰

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続きは、293文字あります。
  • まとめと次回予告

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