HPVの存在証明⑩パピローマウイルスを分離・精製してその姿を明らかにしよう!
これまでに
『HPVの存在証明⑧乳頭腫・イボは感染性の病気だ』において、ヒトに乳頭腫(papilloma, イボ)を作る濾過性病原体(ウイルス)としてのパピローマウイルスの存在が確立したことを説明し、
『HPVの存在証明⑨Shope Rabbit Papillomaの登場』において、ウサギにおいて同様の乳頭腫(papilloma, イボ)を作る濾過性病原体(ウイルス)としてパピローマウイルスの存在が確立したことを説明した。
注意するべきは『当時現在で言うパピローマウイルスの概念・カテゴリーは確立されていなかった』。独立してヒトとウサギで乳頭腫の原因となるウイルスの存在が確立していて、後にそれぞれヒトとウサギを宿主とする異なるが同じグループ(パピローマウイルス)を構成するウイルスであることがわかったということね。
せっかく、HPVの話(まだ人類はHPVを現在と同じ形では発見・認知していないのだけど)になったと思ったら、動物のパピローマウイルスの話になって申し訳ないが、振り返ってみると初期のパピローマウイルスの基礎的な研究・理解は動物のパピローマウイルスを中心に進んだのですまん🐰
今回の話は、後に『SfPV1, Sylvilagus floridanus Papillomavirus 1』と分類されることになるパピローマウイルスの話。別名としてはCRPV(Cottontail Rabbit Papillomavirus)やSPV(Shope Papilloma Virus)と記載されることがあるから、PubMedなどで検索するときは注意ね。
ホストはこの方(🐰の話だった)
グーグルより
前振り🐰
現在で言うパピローマウイルスが概念としても確立していない時代、ウイルス粒子が分離・単離・精製(そして視覚化)できるかどうかとは全く関係なく『ホスト(ウサギ)にイボを作ることができる感染性因子の存在』を基本に、その性質に関する記載から始まったパピローマウイルス学🐰
今回は、ウサギにイボを形成する感染性因子(面倒なので後に一般名として命名されたCRPVという用語を以下に使う🐰)が含まれるサンプルから、CRPVを可視化(みんな大好き電子顕微鏡写真)から、分離・精製するまでの話をしよう。
細胞培養系を用いた増殖系ではなく、素の感染病変・個体からそのまま分離・精製・感染実験をする話なので『ウイルスは存在する証拠はない』と言う人たちにも満足できる証拠の数々のハズ
ウイルスの存在証明がないとか単離・分離論文がないとか言ったときの、単離・分離・精製のプロセスに関する話だ。HPV関連がんでは『ウイルスが粒子として存在しない感染病変』から癌が発症する。いわゆるコッホの原則を満たすことのできない『感染性病原体とその病態の関係』なのだが、初期のパピローマウイルスはきちんとコッホの原則を満たす形で研究が進んだ。
細菌と違うのは①ウイルスが単独で増殖できないこと②細菌よりもはるかに小さく光学顕微鏡で可視化できないことになる。
病気の原因としてコッホ・ヘンレの原則を満たす病原体・パピローマウイルス
初期のパピローマウイルスの研究は、病変からの直接のウイルスの分離・精製が行われた。他のウイルスで行われるような、細胞へ感染させ増殖させるステップを踏まない。これは(今でもそうなのだが)パピローマウイルスにウイルス生活環(感染から子孫ウイルスの産生まで)を完遂できる、細胞培養系がないことによる(パピローマウイルスの研究を去った友人は『増えないウイルスは嫌い』とのこと)。感染動物(ヒト含む)の感染病変から直接ウイルスを分離精製することになる🐰
病原体の単離・分離・精製の違いは『HPVの存在証明⑦病原体の単離・分離とはなにか』において説明した。パピローマウイルスが細胞増殖系を持たないことは、単離・分離の困難さを示しておりコッホの原則の前半部分の達成の困難さを意味する。動物のパピローマウイルスであればサンプルの豊富さからこの問題点が解決されたわけだ。